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びすノート

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びすマニアの方々のために。
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【ショートショート】旗日

【ショートショート】旗日

 休日である。
 暇を持てあまして散歩に出た。
 喫茶店に入って休んでいると、ポケットからひょいと日本国旗が出てくる。
 注文を取りに来たウェイトレスが、えっという目で私を見る。
「これ、やめなさい」
 私はポケットの中の電子ネズミに向かってささやいた。電子頭脳を持ったネズミで、区役所所属である。知能は私よりも高いかもしれないが、ちょっと人間社会を誤解しているところがある。
 ひょいと旗が引っ込ん

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分別

 役人が信用できないということで、役所の機械化がどんどん進んだのはいいが、ギクシャク感は深まるばかりだ。
 たとえば、回覧板。いや、いまは回覧メールだが、言語明瞭意味不明な内容が増えている。
 いい例がゴミの分別だ。
 今週から「生きているゴミ」という項目が増えて、その内容としては、ゴキブリ、子ネズミ等とある。廃棄日は隔週水曜日。二週間の間に死んでしまえば、それは「死んだゴミ」になるのか。
 ちな

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指令

 回覧板メールが届いた。
「たき火に関するお知らせ」である。
 21世紀の管理社会のどこにたき火をする人間がいるのか。いや、仮にいたとしても、そんな場所があるのか。
「場所:福田さんの家の横の路地奥」
 ……あるのか。
 出かけてみた。まさかこんなところに原っぱがまだ残っていたとは。
「器具:ドラム缶(下部に焚き口を備えること)」
 いまどき……あった。でかいドラム缶が。焚き火をしろということだな

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督促

「税金を払ってください」
 と役所からメールがくる。
 どうせコンピュータが自動生成しているのだ。
「ないものは払えません」
 と返信する。
「税金はみんなで公平に分担するものです。あなたには昨年、322万567円の収入がありました。税金を支払ってください」
「可処分所得はぜんぶ本を買っちゃった。それあげるから勘弁して」
「書籍は物納の対象となりません。お金で支払ってください」
「だからお金は本に

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プロトタイプ

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「電子マウスを使っていますか」
 と役所からメールが届いた。
 電子マウス?
「使っているけど、それがなにか?」
「なにに使っていますか」
「パソコンの操作」
「おおっ……! そこまでできるようになりましたか」
 なんだか先方でじーんと感動している雰囲気が伝わってくる。コンピュータが感動するかどうかは別として。
「それ以外になにに使うんだ?」
「いや、それ

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友だち

 ふと夜中にトイレに起きた。
 眠りが浅くて困る。
 俺はさっそくスマホを取り出して、facebookの新着をチェックしようとした。
 圏外ってなんだ。いつもバリバリに電波が三本も立ってるじゃないか。夜中に電気を消したままできることってこれしかないんだよ。
「おまえねえ、すねてんじゃないよ」
 俺は暗闇の中でスマホに向かって文句を言った。
 夜中の圏外って、孤独を百倍深める気がする。
「機械はすね

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友情にひび

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 夜中、ふと目覚めて、電子マウスを呼んでみた。
「おーい。いるんだろ」
「……」
 ねずみも夜は寝るのか、ってそんなことはないよな。電子頭脳なんだし。
「いないのか」
「チュー」
「お。いたか」
「ずっといるでチュー」
「寝てただろ」
「電子マウスは寝ないでチュー」
「さっき呼んだんだぞ」
「……」
「さてはスリープでもしてたか」
「再起動でチュー」
「ふ

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寸止め

全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「神奈川県の秘密を知っていますか」
 と役所からメールが来た。
 と、すぐにまた。
「いやいや、ほかの自治体の悪口をいうなんて。いまのは取り消します」
「区民のみなさまにお詫び申し上げます」
「しかし、くくく」
 役所になにが起きているのだ。
「おーい。びすー」
 電子マウスを呼んでみたが、あだ名が気に入らないのか、返事をしない。
 私は中途半端な気持ちで神

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杉並フォーン

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「新しいスマートフォンのオススメです。杉並区はアイフォーンを推奨します」
 区役所からメールが来た。
 なんだこの嫌がらせは。そりゃあ、オレもアイフォーンはほしいよ。だけど、高くて、手が届かないよ。
「毎月、区からの補助金が一万円出ます」
「えっ、なんだって」
「これなら買えるでしょう」
「買える買える。乗り換えちゃおうかなあ」
「そのかわり、補助金が出る

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心の悩み

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「心の悩み相談室開催。杉並区民は無料です」
 という案内が区役所から届いた。
 あの区役所に悩みを相談するのはどうかなあと思ったが、無料という文字に抗しきれず、申し込んでしまった。
 当日。
 受付に行ってみると、やはり相談者は私だけだった。
「また愚かなことをしてしまった」
 と悔やみつつ相談室に入ると、机の上にちょこんと座っているのは電子マウスだ。

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家ねずみ

「びすー」
 と呼ぶと、意外なところから電子ネズミが顔を出す。
 今日はクーラーの上から飛び降りてきた。
「おまえは忙しいな」
「パトロールでチュー」
「どこを?」
「天井とか床下でチュー。ネズミにとっては、家は人間よりもずっと広く認識されているでチュー」
「ほう。うちの土台は大丈夫だったか? シロアリとか、いないか」
「大丈夫でチュー。柱も腐っていないでチュー」
 なかなか役に立つなと思っている

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営業ロボット

(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

「ピンポーン」
 面倒くせえなあと思いながら玄関のドアを開けると、メカメカしたロボットが立っていた。
 ロボットは強引に中に入ってくると、
「ダブリン工業からやってまいりました。名前はまだありません」
 と言って、居座ってしまった。
「なんの用だい」
「私を買ってください」
「ロボットを買いたいとは思ってないよ」
「クレジットカード番号を入力していただく。

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締め出し

締め出し
(全文、無料で読めます。投げ銭歓迎。)

 地デジチューナーにB-CASカードを挿入しないと使えないように、ネットは住基ネットカードを挿入しないと書き込みできないように法律が改正された。いわゆる実名法の成立である。
 困ったのは住基ネットへの参加を否定していたいくつかの地方自治体だ。東京でいえば、杉並区だ。
「インターネット空白地区になるのも面白いけど、どうなるのかねえ」
「わからないで

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