「けどなあ」
「おまえ、けどなあばかりやなあ」
「けどなあ、加藤のやつが残って、わしがクビ切られるて納得いかんで」
「しゃあないやろ、加藤は子供おるんやし」
「けどなあ、わしかて嫁おるで」
「あの嫁ではなあ」
「なんやて」
「いやいや」
「けどなあ、わしかて職なかったら食うに困るやんけ」
「加藤は住宅ローンも抱えとるしなあ」
「けどなあ、ローンは住宅ローンだけちゃうで。わしかて、ローンはたくさん抱えとる」
「それは多重債務ちゅうねん。そんなんばれるからクビになるんやで」
「けどなあ、なんでパチンコローンや競馬ローンがないんや。世の中、間違っとるで」
「間違っとるのはおまえじゃ」
「けどなあ、家なんか買うても、古なって価値は減るばっかりやろ。なんでそんなものに金貸すんじゃ。パチンコなら増えるかもしれんのに」
「増えん増えん」
「けどなあ、ホンマにいらつくのはおまえが自分のことを加藤と呼ぶこっちゃ」
「そら、おまえがおれのことを加藤ちゅうからやないか」
「加藤は加藤や。けどなあ、おのれのことを自分で加藤いうな、ちゅうねん」
「加藤が加藤いうてなにが悪い」
「けどなあ、それはややこしいで。うちの社員、半分は加藤やないか」
「そやからええんやないか。加藤のクビ切ってもあまり問題にならん」
「けどなあ、ここにこうして会社をやめなあかん加藤もおるわけや」
「ちょっとくらい減ってもわからん。ようけおるからな」
「けどなあ、ここは加藤のおごりやで」
「どっちの加藤じゃ」

（了）

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