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【ショートショート】赤煉瓦地蔵

 公園の入り口の横にひっそりと地蔵が建っている。
 通勤路にあるので、私はその前を通るたびにそっと手を合わせたり、頭を下げたりしている。
 いわれを書いた札はないし、いつからあるのかもしらない。
 地蔵は祠も地蔵も赤煉瓦で作られている。煉瓦の耐久性は三千年と言われているから、そうとう古いものかもしれもれない。
 ある日、めずらしく残業がなく、私は夕方に帰ってきた。
 赤煉瓦地蔵の前を通ると、なかにいつもの赤いお地蔵さんがいない。
「あれ。いない」
 と呟くと、
「お地蔵さんかい」
 と買い物帰りのおばさんに声をかけられた。
「ええ。お地蔵さんがいないんですよ」
「そこの商店街でコロッケを買っていたよ」
 私はびっくりした。あのお地蔵さん、歩くのか。
「いいお地蔵さんなんだけど、買い食いが好きなのはちょっとね」
「太ってしまいますね」
「それは大丈夫。削ればいいから」
「いいんですか」
「そこにタガネが置いてあるだろ」
「はい」
「私はときどき頼まれるよ」
 小さな賽銭箱が眼についた。
 そうか。賽銭でコロッケを買っているのか。たしかに、どうでもいいものをお供えされるよりは、自分の好きなものを買うほうが合理的ではある。
 私は財布から百円玉を取り出し、賽銭箱に放り込んだ。

(了)

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