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【ショートショート】気づき

 私は子どもの頃から少々ケチなところがありました。
 ある日、文房具屋に行くと、きれいに並んだ商品の中にひとつだけ「格安!」という札の下がった鉛筆がありました。名前は「嫌われ鉛筆」です。
「おじさん、この鉛筆どうしてお値段が安いの」
「これはね、うまく字が書けない鉛筆なんだよ」
「へんなの」
「でも、自分だけは読めるから使えないことはない」
 私は嫌われ鉛筆を買いました。おじさんの言うとおり、私のノートはお母さんもお父さんも先生も読めませんでしたが、自分が読めるのですから問題はありません。
 さて、そんな私も三十歳を前にしてそろそろ婚活を考えはじめました。婚活アプリに登録して、いろいろな男性の自己紹介を見ていくと、ひとりだけ「嫌われ者」と書いている人がいました。なにを考えているのでしょう。
 そんな言葉、私にしかアピールしないじゃありませんか。
 さっそくデートを申し込みました。
 あらわれた男性はフジタさんといい、不健康そうでもなく、小汚くもなく、顔はイケメンとはいえなくても普通で、どこが嫌われポイントなのか、私にはわかりませんでした。
「ぼく、どうも人に嫌われるんですよ。先に申し上げておかないと誠実じゃないと思って」
「十分誠実ですよ」
 私たちは付き合い始めました。フジタさんは無口で、お金に細かく、正直すぎるところがありました。お世辞が言えないタイプです。
 これは出世しないと思いましたが、そういう人のほうが家庭を顧みてくれるかもしれません。私はフジタさんと結婚しました。
 友だちには、
「お似合いのカップル」
 と言われました。
 なるほど。私はそんなふうに見られていたのですね。

(了)

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