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【ショートショート】食パン少女

「行ってきまーす」
 ウキタサナエはバターを塗ったトーストを口に咥えて家を出た。
 ヒロシくんは剣道部だからな。朝練なんかあったら、家を何時に出るかわかったものじゃない。
 サナエはヒロシくんの家の近くの街角で待機する。トーストはすっかり冷め切っている。
 ヒロシくんが家から出てくる気配はない。
 トーストを半分ばかり食べてしまった。
 あっ。
 竹刀を背負ったヒロシくんが家から出てきた。
 サナエは気合いを入れ、すこし後戻りした。
 全力疾走する食パン少女とぶつかる剣道男子。完璧なシチュエーションだわ。
 サナエはタイミングを読んで走り出す。が、角を曲がったところでぶつかったのは、焼き魚を咥えた地域猫だった。
「あっ、ゴロウ。ウキタ。大丈夫?」
 ヒロシくんが一匹と一人を助け起こす。
 サナエの目は縞模様の猫に釘付けだ。もうちょっとでヒロシくんと相思相愛になれたかもしれないのに、運命の女神はサナエにゴロウを与えてしまった。
「あら。学校はどうしたのよ」
 驚くお母さんの横を通って、サナエは自分の部屋に入っていった。手には悪い顔付きをした猫を大事そうに抱えている。

(了)

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