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【ショートショート】新発見

 蟻塚博士は新種の蟻を発見することに一生をかけてきた。
 世界蟻学会の壇上に立って、堂々と新発見を宣言した。
「この蟻は、一種の毒蟻であります。刺激を与えると、尻にある毒針から毒液を放出します。毒液が独特の性質を示すため、いままで誰にも発見することができませんでした」
 すり鉢を半分に割ったような会場は、聴衆で満席だった。
 壇上の後ろには大型ディスプレイが設置され、博士が掲げたペトリ皿を拡大して表示している。
「一見したところ、世界中に棲息しているヒアリにそっくりです。しかし、その毒液は、刺された人間をアリ化してしまうのです。私はこの蟻をアリヅカヒアリと名付けたいと思います」
 聴衆はどよめいた。
「どうやって証明するつもりだ?」
 と質問が飛んだ。
「いま、このペトリ皿には、二匹のアリヅカヒアリがおります」
 蟻塚博士は右手の人差し指をペトリ皿の中に突っ込んだ。
 怒った蟻が毒針を振り建てて、指を指した。
 次の瞬間、博士の姿は消滅し、ペトリ皿の中の蟻が三匹に増えていた。
 博士にかわって助手が登壇した。
「蟻塚博士のメッセージを読み上げます。いま、ご覧になったとおり、私は蟻となりました。まだ人としての知能を有しているかどうか、それは私にもわかりません。なお、この成果が認められない場合は、アリヅカヒアリを会場に放つことにいたします。みなさんが身をもってこの新発見を体験されますように」

(了)

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