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【ショートショート】あげる

 夕暮れの公園。
 ベンチに座ったふたり。
 ネネとツネオはこっそり手を握っている。
 今日こそとツネオは思っている。
「ネネちゃん」
「なあに」
「こっち向いて」
「えっ」
 ネネはツネオの緊張した顔を見る。
「私、ファーストキスだよ。乱暴にしないで」
「ぼくだってそうだよ」
「そうなの?」
「うん」
 ツネオが唇を近づけると、ネネもそれに応じた。
「唇、あげるね」
 ツネオはネネの唇に自分の唇を重ねた。吸い付くような感触。
 しばらくじっとして、顔を引いたが、唇は離れない。
「むぐぐ」
 苦しくなって、異物を手でむしり取ると、それは赤い肉塊。唇だった。
 ネネちゃんは、唇のあった場所にすっぼりとなにか輪っか状のものをはめている。
「なにそれ」
「仮歯みたいなもの。しばらくしたら下から生えてくるから大丈夫」
「そ、そうなの」
「私、唇あげるの、はじめて。大事にしてね」
 ツネオはうんうんとうなずいてポケットに入れたが、家に着いても、怖くて取り出すことができなかった。

(了)

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