猫がうずくまっているように見える岬がある。浜に乗り上げる形で猫の顔があり、海に背中としっぽが浸かっている。
　しっぽの先にある鐘付き台「きまぐれな恋」が人気のスポットだ。SNSで拡散されて世界中から観光客が集まるようになった。
　ぼくは散歩がてら鐘を鳴らしにいくことにした。
　自転車で猫岬にいたる道を走り、駐輪場に到着。子どもの頃から通い慣れた道である。
　岩場を歩いて猫の顔にとりついた。黒く大きな岩がちょうど猫の鼻に見える。ぼくは勢いをつけて一気に猫の鼻まで登り、そこからは慎重にロープをたどって猫の額までのぼった。
　このあたりで一番眺めのいい場所だ。猫の背中には何十人かの観光客がいた。
　長い背中を進み、急激に細長くなるしっぽに足をかけた。鐘まではもうすぐだ。と、そのとき。
　ぐらり。
　大きな揺れが来て、もうすこしで海に落っこちそうになった。
　必死になって岩に掴まる。
　もっと大きな衝撃が来て、目の前から一瞬、景色が消えた。
　地面が隆起したのだ。
　いや違う。
　猫が立ち上がったのだ。
　岬はでっかい猫だった。岩や樹木がぼろぼろと滑り落ちていく。
　猫がぶんとしっぽを振った。
「うわあ」
　ぼくは海に叩き込まれた。ようやく浮上し、町に顔を向けると、山のほうへ去って行く巨大な猫のお尻が見えた。

（了）

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