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【ショートショート】手加減

 オレは不貞腐れて裁判官の判決文を聞いていた。
 最初に有罪って言ってるんだから、もういいよ。オレは刑務所に入るんだろ。上等だよ。入ってやるよ。
「しかし、被告は幼い頃から暴力的な家庭環境に育ち、情状酌量の余地もある」
 うん?
「今回が初犯ということもあり、手加減を加える。執行猶予三年」
 え。後ろをみると、弁護人が手を叩いて喜んでいる。
 オレ、コンビニ強盗をやらかしたのに、刑務所に行かなくてもいいの?
「やったな。手加減判決だ」
「そんなの、あるんだ」
「滅多にないから、次もあると期待しないでくれよ」
 オレは弁護士といっしょに法廷の外に出た。
 支援者たちが「手加減」と書かれた紙をメディアに向けていた。
「手加減を受けた気持ちはいかがですか」
「いや、まあ、期待してなかったから驚いたけど」
「これからどうされますか」
「うーん。せっかくの手加減だから大事に使わないと」
「はいはい。通れないからどいてね」
 弁護人が人波を掻き分けた。
 その夜、オレは支援者がくれた手加減Tシャツを着て、居酒屋にいた。
「いやあ、めでたい」
「ありがたいありがたい」
 子どもにオレをさわらせる人まであらわれる。
「将来、手加減される人になりますように」
 支払いは店の好意によって三割手加減された。
 次の日、新聞にもテレビにもオレの顔が大きく映り、なかには「天下御免の手加減男」などと扇情的な見出しを書いているところもあった。
 迷惑をかけたコンビニに謝罪しに行ったら、「手加減コンビニ」と書いた幕を垂らして、大いに賑わっている。
「よくうちの店を選んでくれた」
 と感謝される始末だ。

(了)

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