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【ショートショート】逆転

 朝シャワーを終えたモミジは、まず体重計に乗った。
 体重はキープ。
 続いて、ほくろ測定器に乗る。
 昔はほくろ占い師がいて、いちいちお客を裸に剥いて子細にほくろの濃淡や形を調べたそうだ。
 需要の高まりにより、ほくろ占いは自動化された。ほくろの面白いところは、増えたり減ったり、大きくなったり小さくなったり、濃くなったり薄くなったり、日々、状態が変動することである。その変化を観察することにより、運勢が予測できるのだ。
 全身がくまなくスキャンされ、その日の行動が決定される。
 モミジは五つほどの会社に所属しているが、今日は北東の方向にあるジェネラル社で受付の仕事をすることになった。
 さっそく会社に連絡し、バスと徒歩で出勤する。
 顔見知りのカオリの姿があった。
「いえーい」
 ハイタッチを決める。
「ウチムラさんは?」
 なにごともなければ、ジェネラル社の総務課長であるウチムラさんが私たちに指示をくだす。
「ウチムラさん、まだほくろが薄いらしいよ」
「男性って薄い人多いよねー」
 測定できないくらい薄くなってしまえば、出社停止を言い渡される。
 内村課長のご家庭はまだお子さんが五歳のため、課長は最近、育児に専念しているそうだ。
「おはようございます!」
 元気のいい声が降ってきた。ヤマブキさんだ。ジェネラル社総務部の課長補佐だが、もうすぐ課長に昇進するだろうと言われている。
「今日も元気に始めましょう!」
 と挨拶をし、訪問者リストを配った。
 営業職はほくろの薄い男性に任せられないため、とくに女性比率が高まっている。今日の来訪予定者もすべて女性だ。
 モミジたちは「はーい」と返事し、席についた。

(了)

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