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【ショートショート】口やかましい

 玄関を開けると、棒が立っていた。
「掃除に参りました」
 よく見ると、コードレスの掃除機だ。足下に吸引システムがついている。
「自分でやるからいいよ」
「そういう人ほど掃除をしません」
 正論である。
「お金は出せない」
「充電させていただくだけで十分です」
 それならと部屋に入れたのが間違いだった。
「ものがあるので吸引できません。ものがあるので吸引できません」
「うるさい。同じことを何度もいうな」
 私は必死になって床の上に放り出したものを右から左へ、左から右へと移動させ続けた。
「警告。部屋の容積に対して、ものが多すぎます」
「わかっている」
「では捨ててください。この地域のゴミ収集システムをサーチします。明日は燃えるゴミの収集日です」
「なにを捨てろというんだ」
「サイズの合わない服、紙袋、読まない本、すでに読んだ本、開封していない封筒、中途半端なノート、チラシ、書かない日記帳、すべて破棄してください」
「面倒だな」
「すでに目星はつけました」
 掃除機の頭から四方八方に赤いレーザー光が照射された。私は仕方なく、それらの品々をゴミ袋に詰めていく。
「勘弁してくれ。もう五袋目だ」
「では、おやすみください」
「まだ帰らないのか?」
「お客様が朝八時までに起きられるよう、ここで待機しております」
 部屋からゴミが一掃されたが、掃除機は居座ったままだ。まだ言いたいことがあるらしい。
 郵便物はすぐに処理しろ、適正体重を維持しろ。買い物に無駄がある、毎日風呂に入れ。
 機械が満足して出ていくまでに三年かかった。あれはほんとに掃除機だったのだろうか。

(了)

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