【ショートショート】長い歩道橋
スマホが鳴った。
孫娘が、
「助けて」
という。
下の子どもが発熱したので日中の世話をお願いしたい。
ばあちゃんとしても行きたいのはやまやまだが、孫娘が住んでいるのは三丁目、自分は一丁目。三丁目と一丁目の間には超すに越せない幹線道路が横たわっている。
幅は六車線。ばあちゃんの足では信号が青のうちに渡りきることはできない。道路の途中で信号が変わり、まわりを車がびゅんびゅん飛び交い、気が狂ったようにクラクションを鳴らされた経験がある。
地獄とはこのことかと思った。
「信号の近くに歩道橋があるじゃない」
「足が痛むんだわあ」
「もう!」
と孫娘は叫んだ。
「手伝ってくれる気、あるの、ないの」
「うちに連れてきてくれんか」
「熱があるのよ! 外出なんて無理」
結局、ばあちゃんが歩道橋を登ることになった。
三段、五段、十段。息が切れてきた。心臓が苦しい。
十五段、二十段。一度休むと二度と動けないと思う。足が鉛のように重い。
二十五段、三十段。意識が朦朧とする。
五十段。
「もしもし」
男性が倒れているおばあちゃんに声をかけた。
千五百七十四段。
大きな門がある。「天国」の看板がかかっていた。
「おやおや」
おばあちゃんははるか下界を見下ろした。曾孫をだっこして、マンションの入り口でいらいらしている孫娘の姿が目に映った。
(了)
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