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【ショートショート】自分の刻印

 午前七時、蔦の絡まったお屋敷に到着した。
 執事に控えの間に通された。
「お嬢様はいま化粧の下地を作っておられます。しばしお待ちください」
 ソファに座り、ハーブティを啜っていると、オレの順番が来た。
 お嬢様は退屈そうな顔で、椅子に座っている。
「なにを描いてもらえるのかしら?」
「なんでも。リクエストがなければ、紅髑髏はいかかでしょうか」
「髑髏?」
 お嬢様の表情がぱっと明るくなった。
「面白いわ。そんなのクラスでも見たことがない」
「ではお時間を頂戴いたします」
 オレは頬紅パレットを開いて、お嬢様の顔に絵を描き始めた。
 みるみるうちに細密な髑髏の絵が両の頬に浮かびあがった。
「まあ、不気味」
 お嬢様が微笑むと、頬の筋肉に引っ張られた髑髏も表情を変えた。
「あなたすごい。ねえ、私以外の娘には描かないと約束して」
「もちろんでございます」
 夕方、お嬢様が学園から戻ってきた。
 オレは頬紅をキレイに落としてやる。
 お嬢様はウキウキした表情で、
「明日も髑髏を描いてね」
 と言った。
 みんなにドクロちゃんと呼ばれたそうだ。
 ある日、
「こんなに美しい髑髏、見たことないって校長先生に褒められたわ」
 と嬉しそうに報告した。
 オレの眼は皮膚も筋肉も透視してしまう。見えているのは骨だけ。
「モデルが美しいですからね」
 と答えた。なにも知らないお嬢様はにっこり笑った。

(了)

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