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【ショートショート】なくてもいいもの

「あれっ。スマホを家に忘れたら、ただで歩けたぞ」
 という書き込みに226万いいねがついた。
 目から鱗だった。
 国道の有料化は、スマホの位置情報と自動課金システムによって成り立っていたからである。
 政府は維持管理費ばかりかかって税収を生まない国道を手放し、都道府県や市町村に払い下げてしまった。自治体としては、コストを回収するために当然、有料化する。すべての道には所有者がいるため、彼らも自分の道を有料化した。
 その結果、近所のスーパーに買い物に行くだけで、チャリンチャリンとお金が引き落とされる事態となっていたのである。
 だが、スマホさえ持っていなければ、位置を特定できず、課金もできない。
 ぼくはユリに、
「ひさしぶりに公園で会おう」
 と電話した。
 道は人でごったがえしていた。こんな光景をみるのはひさしぶりだ。
 ユリは、公園の東屋で待っていた。
「お弁当作ってきたよー」
「ありがとう」
 ぼくらは食事をし、お茶を飲んで話をした。その間、メールもメッセージも来ない。来ているのかもしれないけど、スマホを持っていないので確認のしようがない。
「なんだか開放感があるなあ」
「そうね。私たち、なにしていたんだろうね」
 こうしてスマホは凋落した。

(了)

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