【ショートショート】早寝早起
行きつけの漢方医は早寝早起きをすすめる。
電気がない時代の人間は日が暮れたら眠り、日の出とともに起きだした。電気が発明されたからといって、にわかに身体の仕組みが変わるわけもない。この睡眠リズムを続けることが健康につながる。
私は愚痴をこぼした。
「早寝早起きができないんですよ」
「運動はしていますか」
「していません」
先生はため息をついた。
「せめて散歩くらいしてほしいんですがね。とにかく朝起きる時間を決めてください。そのうち身体が慣れるでしょう」
早起きはできたが、睡眠不足に陥った。一日中フラフラしている。
また相談に出かけると、
「わかりました。最後の手段です。次回、ケージを持ってきてください」
と言われた。
指定サイズのケージをもっていくと、
「特別にわけてあげます」
と言って、にわとりを一羽くれた。
「ぼくの早寝早起きの秘訣はこれです」
そして、世話の仕方を詳しく終えてくれた。
簡単にいえば、夜明けとともにエサと水やり、昼にもう一度エサと水やり、午後におやつとお散歩、そして日没頃に水やりをする。
先生のくれたにわとりはめちゃ可愛かった。サスケと名づけた。サスケは人にによく懐く。散歩にいくと街行く人がみんな振り返る。寝るときは私の頭の横ですやすや眠る。にわとりが眠ると私も眠くなる。
毎日、サスケと共に眠り、サスケと共に起きてサスケと散歩してサスケとご飯を食べた。まるでにわとりになったようだ、と苦笑いして、ふと腹の違和感に気づいた。
キュッと腹に差し込む痛みが来た。体を曲げてトイレに行った。卵が生まれた。
(了)
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