人間の一生は短い。たった四千週しかない。
　そんなことを考えたのは、腕にはめているスマートバンドに「すきまチェッカー」という新機能が搭載されたせいだ。
　なにもせずにぼーっとしている時間を計る、ちょっと嫌みな機能である。脳波と心拍数を組み合わせて算出するそうだ。ちなみに、本日の私のすきま時間をチェックしてみると、約三時間と出た。
　たとえば朝食のあとには五十二分もぼーっとしている。たしかに、ソファにもたれてなにもしていなかった。あの時間はなんだったのか。テレビのニュースを見ていたのだと言い張ることもできるが、それがウソだということは自分がいちばんよくわかっている。
　中学生の息子のスマートバンドを見せてもらうと、すきま時間はたった十五分だった。いまどきのこどもは忙しいからなあ。
「とうちゃん、最近、顔色悪いよ」
「ちょっと気になることがあってなあ」
　ぼーっとしている上に顔色まで悪くなるのでは引き合わない。
　私はワンクラス上のスマートバンドを買ってきた。このバンドは、すきま時間が始まるとピッと警告音を発する機能を搭載している。
「ぴっ」
　警告音が鳴ると私は立ち上がり、するべきことを考える。
　考えてみれば、するべきことなんて山ほどある。ただそれを実行するのがいやなだけだ。
　やらなきゃいけないけどいやだなあと考え、その考えている時間はやはりすきま時間にカウントされてしまう。するべきことはわかったが、すきま時間はいっこうに減る兆しを見せない。
　私は結論を出した。すぐにぼーっとしてしまうのは性格だ。性格は治らない。
　すきまチェッカー機能をオフにしてしばらくすると、息子が、
「とうちゃん、すこし元気になったんじゃない」
　と言った。

（了）

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