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【ショートショート】早朝の工事

 早朝五時。深く寝入っていた私は、ドガガガガという大音響で飛び起きた。
 世界の終りかと思ったくらいの衝撃だ。
 いや、実際に家が細かく振動している。
 私はガウンを羽織って、家から飛び出した。
 うちのすぐ近くでアスファルトが剥がされ、地面に穴が穿たれている。
「いったいなにごとですか」
 と私は警備員に聞いた。
「御迷惑をおかけし、申し訳ありません。ご覧のようにシロップ管が破裂しまして、緊急工事をしております」
 茶色い膜のようなもので道路が覆われている。
「あ、危険なので近づかないでください」
 警備員がいい終わる前に、私はすとんと転んでいた。
 尻をさすりながら、甘ったるい匂いを胸いっぱいに吸い込む。
 これはたしかにメイプルシロップだ。
「そのシロップ管というのは、どこに配管されているんですか」
「は?」
 警備員は不審げな顔をした。
「あなたはホットケーキを食べないんですか」
 今度は私が首をひねる番だった。
「食べますけど、そんなに頻繁には」
 警備員は信じられないという顔をした。
 なにしろ古い家なので、台所には水道管しか引き込んでいない。つい先日「マヨネーズ管を引きませんか」という営業電話がかかってきて「冗談でしょ」と答えたばかりだ。いまどきの台所はずいぶんと便利なのだろうなあ。

(了)

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