庭にはパンジーの花が咲いている。ほかにもハーブがすこしと季節の野菜。狭い庭なので、そのあたりが精一杯だ。
「たまには草抜きを手伝ってよ」
　と妻に手袋を渡された。
　私は庭に下りた。分厚い葉をもつ緑の草がそこら中に生えている。
「すごく成長が早いの」
　濃緑の草を引き抜くのに半日かかった。集めてビニール袋に入れる。
　非常に生命力の強い草らしく、次の日にはもう新しい芽を出している。
　日曜日に手伝うだけではとても間に合わなくなり、私は早起きして出社前にも草抜きをするようになった。
「今度はへんな木が生えてきた」
「そいつも成長が早いのかい」
「昨日芽が出たばかりなのに、今日はもう五十センチくらい」
「竹みたいだな」
　私はスコップで名前のわからない木を根っこから掘り起こした。
　数日は格闘を続けたが、旺盛な繁殖力に音を上げた。
　木は塀をぶち抜いてお隣に進出した。お隣は家の中からも木が生え出し、これはたまらぬと引っ越しした。お向かいもその隣も引っ越していく。
「庭がどんどんでかくなっていくなあ」
「冗談を言ってる場合じゃないわ」
　うちだけがぽつんと密林の中に取り残された。
　陸の孤島である。
　私たちは手荷物を持って密林の中を歩き出したが、名もなき草木はすでに都市を破壊し尽くしていた。
「庭が広すぎる」
　とオレは言った。

（了）

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