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【ショートショート】遠い声

 オレは冷たい荷物を小脇に抱え、インターホンを鳴らした。
「荷物をお持ちしました」
 しばらく無言が続き、カチャ、カチャとなにかを切り換える音が聞こえた。
 留守中は連絡先がスマホに切り替わるタイプだな。
 ようやくつながった。と思ったら、
 ざああ、ざああと雑音が流れた。
「こじ、ま、です。いま、仕事で、月への移動中で、電波が」
 ざああ、ざああ。
 月。ということは、いま、宇宙にいる人とつながっているのか。
「おきは、で」
「お荷物、冷凍なので置き配はできないんですが」
 ざああ、ざああ。
「カニ」ざああ。「カニ」ざああ。
 声に焦りがにじむ。
「カニ」ざああ、「ふるさ」ざああ、「納税」
 ふるさと納税の返礼品だったのか。
「カニ」ざああ。「カニお隣には」ざああ。「渡さないで」ざああ。
 私が不在通知票を書いていると、後ろから、
「荷物かね」
 という声が聞こえた。
「小島さんはたいてい不在だ。私は隣の者だけど、預かってもいいよ。あんたも二度手間だろう」
 ざああ。
「その人は前科が」
 えっ。
「喰ってしまう」
 振り向くと、身体の大きなお婆さんがニタニタと笑っていた。
 ざああ。ざああ。ざああ。

(了)

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