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【ショートショート】結節点

 父が膵臓癌で亡くなった。七十四歳という年齢はいまの時代では早いのかもしれない。
 余命が宣告されてからの三ヶ月、父はホスピスの特等室にいた。あまりにも見舞客が多かったからである。
 経営していたいつかの会社の関係者、顧問をしていた財団やNPO法人、町内会の人たち、ネット友だち、通っていた飲食店の常連客、読書会のメンバー、父のYouTubeのファン、商店街の人たち、こうして書き連ねていくときりがない。
 ホスピスに常駐し、見舞客をさばきながら、私は父の交友関係の広さになかばあきれる思いだった。
 どこのグループでもいつの間にか父が中心になってしまうらしい。
 葬儀は大きな教会で行った。いくつもの献花台を設けたが、献花するひとの群れはいつまでも途切れず、とうとう徹夜になってしまった。献花台の前に立ち続ける私たち家族はボロボロだ。列のなかには私が顔を知っているような有名人もたくさんいた。
「さっきの人、総理大臣だよね」
 と私は小声で母に聞く。
「小学校のときのクラスメイトらしいよ」
「へえー」
「あそこにいる人、天皇陛下に似ているんだけど」
「まさか」
 母も驚いている。父はいったいどんな人生を送ってきたのだろう。
 葬儀がぶじ終わり、もろもろの手続きを終えて私たち家族がようやく落ち着いたのは一週間後だった。
 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。
 新しい町内会長さんだ。
 居間に通すと、しばらく父の思い出話をしたあと、
「町内会がまとまらないのです。お父さんのあとを継いで、会長になっていただけませんか」
 と言われた。
 イヤな予感は的中した。それからもチャイムが鳴り続けたのだ。

(了)

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