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【ショートショート】予約が大事

 ショウタがアヤコのスマホ画面に見入っている。
「ここ、人気店なのよ」
 洒落た外見のカフェだ。
「なにがいいの」
「スイーツ。チーズケーキが絶品なの」
「入れるかな」
 とショウタは心配した。
「大丈夫。予約済みだから」
 アヤコはちらっとスマホを見た。
「あと百人か。五時間くらいね」
 ショウタはびっくりした。
「いつ予約したんだい」
「三日前」
「気が遠くなる」
「このくらい常識だよ」
 それからふたりはアヤコが予約していた美術館で特別展示を鑑賞し、一週間前から予約していたレストランで食事して、カフェに入った。もう日が暮れかけている。
「お疲れ様」
 ショウタは予約の手間をねぎらった。
「ところで、来週の水曜日、有給とれる?」
 とアヤコが聞いた。
「なんとかなる」
「お寿司食べにいこ! おなかいっぱい食べてもひとり五千円くらいだから」
「会社を休んで行くほど?」
「もちろん! だって一年前に予約したんだよ」
 ショウタはめまいがした。一年も待つ感覚はよくわからないが、それだけ価値のある店なのだろう。
「わかった」
 と返事してから、ハッと気づいた。アヤコと付き合ってまだ半年だ。
「誰と食べに行くつもりだったの?」
 アヤコは元気に言い切った。
「細かいことは、気にしない!」

(了)

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