見出し画像

【ショートショート】フルーツ

 隣の奥さんが、ビニール袋片手にやってきた。
「うちの田舎から送ってきたフルーツ。よかったら使ってください」
「ありがとうございます」
中身をちらりと覗いた。
「これはなんという」
「名前は知らないの。皮を剥いて生で食べてもいいし、ジャムにしてもおいしいわ」
私はキッチンのミキサーの前に戻った。
今朝はバナナとキウイ、レモンの予定だったが、せっかくいただいたので、このフルーツも加えてみようか。
緑色をした塊をビニール袋から取り出した。
ナイフを手に取ると、まな板の上においたフルーツがぶるっと体を震わせた。
真ん中から切り分けようと思ったが、緑のフルーツが動いたせいで、端をすこしだけ切り落とすことになった。切り口から赤い液体がほとばしる。
果肉も赤い。
フルーツは、まな板の端のほうに移動し、ぶるぶると震えている。よくみると、底面に小さな足のようなものが生えていた。
お隣さんは、なぜこの四角い物体をフルーツだと思ったのだろう。
切り落とした部分を元に戻してやり、バンドエイドで止めた。
私がナイフを置いたので安心したらしく、フルーツはじっとしている。ベランダで育てることにした。
「あら、そのフルーツ」
と、洗濯物を干しながら隣の奥さんがうちのベランダを見ていう。
「これ、フルーツじゃありませんよ。観賞用植物ですよ」
「あら、そうだったの」
奥さんはちょっとばつの悪そうな顔をした。
お隣一家が惨殺されたのは、数ヶ月後のことだ。朝、キッチンに返り血を浴びたフルーツがいたので、私はあわてて全身を洗ってやった。
「仲間の復讐をしたのかい」
フルーツはもちろん返事をしない。
事件は迷宮入りし、フルーツは今日もうちのベランダで気持ちよさげに日光を浴びている。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

この記事が参加している募集

私の作品紹介

眠れない夜に

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。