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【ショートショート】蹴るべきか

 駅へとつづくメインストリートを歩いていると、べちゃっと潰れ、溶け出したアイスクリームが落ちていた。
(子どもかな。泣いただろうなあ)
 と思いながら、通り過ぎる。
 プラスチックの箱が潰れ、中から三個ほどたこ焼きがはみ出している。
「うわっ」
 といって、横によける。
 最近、食べものが道に落ちていることが増えた。うっかりにもほどがある。
 一日の仕事を終え、同僚のゴトウサエコといっしょに駅に向かった。
 道の真ん中にLサイズのピザが落ちて、あたりに破片が散らばっていた。
「邪魔ねー」
 ゴトウはピザを蹴り飛ばした。
「あ、靴が汚れちゃう」
 かたーんという音を立てて、硬いピザが道路脇に転がっていく。
「え、ピザじゃないの?」
「汚しよ。知らないの?」
「知らない」
「壊れた食べもののサンプルを作って人を騙すのが流行っているの。通称、よごし」
「悪趣味ね」
「犯人はたいてい近くにいて、除ける人を見て喜んでいるんだって」
 私は後ろを振り返った。街路樹の陰に隠れた小太りの男が、こちらを見て、口を歪めているのが見えた。
「どこの食品サンプル教室も満員らしいよ」
「いやね。変態っぽい」
 私は珈琲の流れ出したアイスフロートの紙コップを蹴飛ばした。
 アイスクリームがべとっと靴に張りついた。
「あら」
 とゴトウは目を丸くした。
「私、運が悪いのよ。おみくじはいつも大凶だしね」
 私はため息をつき、ティッシュで靴をぬぐった。

(了)

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