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【ショートショート】方向音痴

 友人から電話がかかってきた。ガラケーしか持ってないから紙の地図を送れという。古い地図に目印を書き込み、コンビニからファクスした。
「駅についた」
「そうか。地図、古くて申し訳ない。目印がなかったらすぐ電話して」
「それで電話した」
「えっ、もうわからんの」
「北口を出て、ロータリーをぐるりと回る」
「うん」
「モスの横の道を入るってなってるけど、マクドしかない」
「うちはマクドのない珍しい町なんだけどな。ほんとに北高円寺の駅か」
「そう言われると自信なくなってきた。ちょっと待って。……あ、旧高円寺だった」
 しばらくして電話がかかってきた。
「北高円寺に来たらモス、あったわ」
「そうだろ」
「横の道をどんどん歩いていくと、スーパーがあると書いてあるが、ないぞ」
「すまん。潰れた。いまは温泉になってる」
「なんだその業態変更は」
「ロビーで生鮮野菜を売ってるから、地元ではまだスーパーって呼ばれてるんだ」
「知らんわ。じゃ、ここ左へ曲がるぞ」
「そうしてくれ」
「猫のひげってなに」
「イタリアンの店」
「ないなあ」
「一階は寿司屋。二階が猫のひげ」
「寿司屋って書いとけっ」
 友人は二時間かけてようやく家に到着した。ふつうなら十五分の距離だが、方向音痴としては上出来だ。
「帰りは大丈夫か」
 友人は自信満々にポケットを叩いた。
「目印をばらまいてきた」
「えらい。なにをばらまいた」
「猫のカリカリ」
「令和のヘンゼルか」

(了)

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