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【ショートショート】有料レジ

 近所の業務スーパーは商品が格安なので、いつも大賑わいである。
 夕方や昼前に買い物に行くとえらいことになる。長蛇の列でレジにたどり着けないのだ。店の中を一周し、さらに外に出てぐるりと店を取り囲むくらい並ぶ。
 お買い得なのだが、あの行列を思うと、つい出かけるのが億劫になる。
 そんなある日、空いているレジを発見した。五人くらいしか並んでいない。
 私はもちろんその行列に並んだ。ふつうはレジ袋を買うかどうかは任意なのだが、このレジに限っては有料レジ袋購入必須なのだそうである。
「大きいのにしますか小さいのにしますか」
「小さいのでお願いします」
「30円です」
「えっ」
 ふつう3円くらいではないか。暴利である。道理で行列ができないわけだ。しかし、時間を買ったと思えば安いものだと無理やり自分を納得させた。
 次に出かけたときも、有料レジに並んだ。
「レジ袋、300円になります」
「高すぎるんじゃないの」
 滅多に文句など言わないのだが思わず意見してしまった。
 すると店員は身を乗り出し、
「実は」
 と言った。
「新しく開発された冷蔵ポリ袋なんです。このまま野菜やチーズを保存できますよ」
「ホントですか」
 中に手をいれると、ヒンヤリしている。
 その次は5000円の冷凍ポリ袋。1万円のレンジポリ袋も登場した。帰宅する頃には弁当が温まっている。
「そのうち、空飛ぶポリ袋が出てくるんじゃないの」
 と言ったら店員がにやりと笑った。
「ございます。10万円ですが、お買い求めになりますか」
 ちょっと手が届かないな。
 私の後ろに並んでいた男性が、
「面白そうだな。それ、オレが買うよ」
 と言った。
 私とその男性は並んで店の外に出た。
 どうなることかと思ったら、男性は店を出たとたん、右手に持ったポリ袋にひかれて空へと舞い上がっていった。
「あー」
 という声が聞こえる。
 あっと言う間に点となって消えてしまった。
 彼が買ったのは反重力ポリ袋。
「欠陥商品だな」
 と呟いて、私は家に戻った。

(了)

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