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【ショートショート】転校生

 チャイムが鳴って、ドアが開いた。ホームルームの始まりだ。
 担任の山城先生の横には、物置がある。
「転校生のイナバくんだ。今日からみんなと同級生になる。仲よくするんだぞ。では、挨拶をして」
「イナバです。よろしくお願いします」
 と物置は言った。どこから声が出ているのかよくわからない。
「イナバはそうだなあ。一番後ろ。壁に張りついてくれ」
「はい」
 ガタガタガタ。
 ぼくたちは椅子や机をどかして、イナバくんの通り道を作った。
 イナバくんは窓際の壁にひっついて、落ち着いた。
 放課後。
「イナバくんはどこへ帰るんだい」
 と聞いてみた。
「ぼくは帰らないよ。ここ、気に入った」
「ごはんはどうするの」
「食べないもん」
「そうかあ。ひとりで平気なの」
「うん。それより、なにか荷物ない? 邪魔なもの」
 ぼくは自分の机の中を見た。
「こんなのしかないけど」
 ビー玉、古いプリント、漢字テストの束。蝉の抜け殻。使わなくなった篭手。
「いいよいいよ。ぼくのなかにしまってくれ。モノがあるとホッとするんだ」
 イナバくんはクラスのみんなの不要品を集めてはきっちりと分類整理した。
「イナバー。これもいい?」
 ぼくは写真アルバムを見せた。家で整理しろと言われたが、面倒で手をつける気にならなかったのだ。
「今日はちょっとなあ」
 めずらしくイナバくんが口を濁した。
「いっぱいなのかい」
「そうなんだ」
 戸口を引き開けて、ぼくはびっくりした。
 保健室の保森先生が入っていた。よくみると、血だらけだ。
「湿気のあるものはダメですって言ったんだけど、山城先生がひと晩だけっていうから」
 ぼくは恐ろしくなって逃げ帰った。
 次の日、イナバくんの戸口を引き開けると、保森先生の死体は魔法のように消えていた。
「ごめんねー。血がついたから、ほかのものも全部山城先生が処分しちゃった」
「いや、どうでもいいものばかりだから気にしないで」
 クラスのほかの子たちは誰も気づいていないようだ。
 二週間後、保健室に新しい先生がやってきた。

(了)

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