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落語協会パワハラ事件をめぐる一考察(前編)

読者の皆さま、大変ご無沙汰しております。
上に掲げたテーマですが、これまで掲載してきたテーマと大きく異なりますが、どうしても自分の考えをまとめたかったので、ここに掲載させていただきたいと存じます。
ご興味をお持ちの方、ぜひご一読ください。


1 はじめに

私は落語が好きである。落語を聴くのももちろんだが、落語家(噺家)の芸談、各人の面白おかしい言動やエピソードを聴き、噺家の持つキャラクター性を楽しむのもまた好きである。

その落語界に、非常に憂慮すべき事件が起きた。

一般社団法人・落語協会所属の現役噺家が、師匠であった噺家のパワーハラスメントに耐えかね、民事訴訟を提起。師匠に対し損害賠償を求めたのだ。

2024年1月26日、東京地裁での判決は、ほぼ原告の勝訴。
被告の働いたパワハラ行為をほぼ事実、さらには不法行為と認定した。

原告は三遊亭天歌(現・吉原馬雀)こと井上雄策、被告は四代目三遊亭圓歌こと野間賢という。

2 四代目三遊亭圓歌襲名披露興行

四代目三遊亭圓歌。新作落語の名人と謳われ、落語協会会長も務めた故・三代目三遊亭圓歌の弟子である。旧名は三遊亭歌之介。三代目圓歌の遺言で、四代目を襲名したことまでは知っていたが、人となりはよく知らなかった。

時は「平成」から「令和」に移り変わったばかりの、2019年6月。

その歌之介改め四代目圓歌が、全国で襲名披露興行を行い、仙台にもやってくるという。
噺家にとって最高の晴れ舞台の一つが、この襲名披露興行である。滅多に見られるものではない。先に東京公演を見た落語好きの親友の勧めもあり、この仙台公演に赴くことにした。
客演(ゲスト)に呼ばれた噺家もまた豪華であり、一度は見たい、聴きたい人ばかり。まるで超高級・松花堂弁当のようだ。

★    いまや「日本一チケットの取れない噺家」の呼び声高い、柳家三三
★    四代目圓歌の弟弟子、三遊亭歌武蔵。元・武蔵川部屋の大相撲力士という経歴もさることながら、その愛嬌あるキャラクターは、若手時代にNHKのバラエティ番組のレギュラーだったころから注目してきた
★    落語協会会長にして、協会最大派閥・柳家小さん一門の中心にいる、柳亭市馬
★   「笑点」でおなじみ、圓楽一門会・三遊亭好楽門下で、人気・実力とも台頭してきた、三遊亭兼好

襲名披露興行のパンフレットと、当日会場で求めた記念品

トリを務めた圓歌は、代表作である自作の人情噺「母ちゃんのアンカ」を披露。少年時代、不遇で極貧の生活だった経験を落語にしたもので、客演の豪華ゲストにも負けぬ熱演ぶり。大爆笑を取った襲名披露口上も含め、大いに満足して帰路に就くことができた。

上方落語・米朝一門の熱烈なファンである地元の友人が「江戸落語はなじみがないけど、聴いてみたい」とのことで、一緒に会場へ行ったが、その友人も満足してくれたのが嬉しかった。

3 総領弟子「三遊亭天歌」の変調と「フライデー」

さて、その襲名披露興行で開口一番を勤めたのは、落語協会の二ツ目、「三遊亭天歌」という若い噺家だった。

天歌は圓歌の総領弟子であり、自作の噺「暴走族」を披露。しかし筆者は、残念ながらその時、彼の名前までは憶えることはなかった。ただ、開口一番の使命である「客を温める」役割はしっかり果たしてくれたと思っている。

それから約3年後。
たまたま、その天歌の個人ブログを見つけた筆者は、目を疑った。

お世話になっております。
このたびご報告です。
 
事の詳細について控えますが、私は現在、加害者と所属する落語協会に対して法的な対応を取らせていただいております。
 
落語界は年功序列の世界であり、キャリアが上の方を敬う風習があります。芸の継承のためには必要なことです。
 
しかしごくごく一部の話ではありますが、上の者が下の者に指導の名のもと暴言・暴行・強要・嫌がらせなどが行われております。たとえば大声で威圧的に叱責する・ペナルティとして坊主にする・破門を盾にして謝罪を強要するなどです。このようなパワーハラスメントをはじめとした各種ハラスメントが落語界でまかり通っている現状は大いに疑問です。

-ameblo「三遊亭天歌の奇妙な冒険」2022.3.31

「三遊亭天歌って、圓歌の弟子じゃないか。一体、何があったのか…」

突然の活動休止宣言、一部噺家の不当な体罰やハラスメントを示唆。それは誰あろう師匠・圓歌からの仕打ちであると、のちに明らかにし、次いで「フライデー」の取材を受け、詳細が白日の下に晒された。

天歌の語るそのハラスメント経験は、酸鼻を極めるとしか言い様がなく、かつて筆者も様々なハラスメントに苦しんだ経験を持つが、それを思い起こし、吐き気を催すほどであった。

師匠による厳しい芸や作法の指導は、落語界ではよく聞くことであり、噺家のマクラや芸談でもよく耳にすることである。
しかし圓歌の振る舞いが「正当な教育的指導」とは、筆者は到底認めることはできなかった。

圓歌の門下では、かつて一番弟子にして天歌の兄弟子だった「三遊亭ありがとう」が、精神を病んだとされ、入門から約4年で廃業しているという話は知っていた(後、義太夫に転向し、現在は歌舞伎の舞台で活躍中)。この兄弟子の廃業劇も、圓歌の指導下手や、不当な仕打ちが背景にあったのではないかと疑わせた。

このニュースを知った、襲名披露興行に一緒に行った友人は「常日頃感じていた、落語協会の陰湿な一面を見た気がした」と、眉をひそめた。
筆者は心ならずも、大切な友人に不快な思いをさせ、申し訳ない気持ちで一杯だったが、それはやがて、客を裏切りこの上なく不快にさせた、三遊亭圓歌への怒りに変わり、現在に至る。

(続、文中敬称略)

※後編では、裁判の行方と落語協会員の抱える問題、筆者の考える協会のハラスメント防止策と「再生への処方箋」について言及する予定。


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