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【小説】おいしいものを、すこしだけ 第6話


 亜紀さんはめずらしく日曜日が休みだ。なぜか自分の本棚から絵本を何冊か抜いて、悪戦苦闘しながら梱包している。図書館員のくせに本の梱包が下手だ。見かねて手伝った。
「これ、どうするんですか」
「甥っ子の誕生日に絵本をプレゼントしようと思って」
「へえ」
 亜紀さんは家族と絶縁しているような印象だったので意外な感じがした。
「甥御さんて、いくつですか」
「三歳です」
「かわいいでしょうね」
「まあ子どもですから、さすがに大人よりはかわいいですね。人間の子どもは大人から見てかわいい様子をしていないと生きのびられませんから、そういう方向に進化したんだなと思います」

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3,531字

現役図書館司書が書いた、図書館司書の登場する小説です。 (全20回連載予定)

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