「レアリスム」と言うと、ありのまま(「現実」)を描写する姿勢や芸術の作品を指すが、一口に「現実」と言っても、その捉え方は時代や社会状況によって異なってきた。
本書は、複数の著者がそれぞれの視点で「レアリスム」(「現実」)について、その多様さを論じた、論考集となっている。
「現実を表現する」ということはつまり、「『現実』についての思考」が存在することである。その違いを認識することで、実は私たちが見ている「現実」も、あくまで一時代の在り方でしかない、という視点に気づくことができる。
例えば、先日読んだ『水族館の文化史』では、書籍等のメディアの普及によって、観客の水族への理解が高まることで水族館の在りようも変わっていった、という話があったが、新しいメディアの登場によって、人びとの現実認識が変わるということが十分にあり得るのは理解できる。
本書では、それは「写真」という視覚メディアの登場に触れた部分で読み取れる。
写真の登場はレアリスムに関わる諸芸術のあり方を変化させたらしい。
そこで画家たちが取った行動は、写真というメディアによってもたらされた新しい感覚を作品に取り入れることであり、それによって「現実」への認識も変わっていった、という。
それはさまざまなものが複製され、大量に生み出されるようになった「近代」という時代への対応とも呼応しているというのも興味深い。
また、写真自体も、「専門的な技術であった時代」から「あらゆる人がカメラを気軽に扱えるようになった時代」への変化に伴って、その存在の在りようがいくつもに分かれていったという。その過程も非常に興味深い。
この二つの動向に共通するのは「イメージの流通量が圧倒的に増えた」ということであろう。そうした社会の避けがたい動きに対して、人びとの既存の芸術や写真に対しての認識は再考され、変化せざるを得なかった。
「イメージの流通量が圧倒的に増えた」という部分は、今まさに私たちの時代でも起きているようなことであり、ここから私たちの既存のものへの認識も変わらざるを得なくなっていくのだろうか。