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男のコンプレックス Vol.14「肉棒性男子の去勢不安」

【注記】
これは、マガジンハウス「POPEYE」2010年2月号〜2012年5月号に連載していたコラムの再録です。文中に出てくる情報や固有名詞はすべて連載当時のものです。現在では男尊女卑や女性蔑視、ジェンダーバイアスに当たる表現もあり、私自身の考えも当時から変化している点が多々ありますが、本文は当時のまま掲載し、文末に2023年現在の寸評を追記しました。

「○○離れ」はおっさんの罠!
もっと“男”をほのめかせ!

 その昔、ジークムントという『銀河英雄伝説』に出てきそうな名前の精神科医の先生がこう言ったそうな。

「夢にヘビや鉄砲が出てきたら、それは“男根”の象徴です。夢は無意識なのかって? いい質問ですねえ!」

 よく知らないので後半は池上彰テイストで乗り切ったが、これがかの有名なフロイトの夢分析である。しかし、これが本当なら、無意識下ではゲバ棒もマツイ棒もみな肉棒の象徴ということになってしまう。たしかに日本には“ほのめかす”という美徳があるが、人はそうしょっちゅう肉棒をほのめかしながら生きているわけではない。

 一方で、男が常に自らの“肉棒性(セックスアピール)”を女性にほのめかしたいと思っているのも本当だ。

 車の助手席に女の子を乗せるとき、ハンドルさばきやシフトチェンジが手慣れて見えるように意識しちゃうでしょ。あれは“運転ががさつな男はセックスも下手”みたいな『SPA!』や『週刊現代』に出てくる女の証言を気にして、「俺は運転も夜も上手いですからね」とほのめかしているわけ。

 とはいえ、自動車が男のセックスシンボルだったのは昔の話。最近は若者の“車離れ”が著しいと言われている。でも……それって本当か?

 旅行離れ、ブランド離れ、飲み会離れ、テレビ離れ……。若者はあらゆる欲望が薄いかのように決めつけられているけど、これってモノが売れなくなった腹いせに、おっさん世代が若者の“肉棒性”をほのめかすチャンスを奪っているだけじゃないの? そのうち、“サオ離れ”“タマ離れ”“精子離れ”などと言われ、我われはジワジワと去勢されてしまうのではないか。

 男子よ、“肉棒性”の道はまだある。我われはパソコンのキーボードをスパンキングみたいに荒々しく打ったり、タッチパッドを慣れた手つきでサワサワと“アダムタッチ”したりすることで、夜のベッドテクを女性にほのめかし、おっさんたちが陥れようとする去勢不安をはねのけるべきなのだ!

(初出:『POPEYE』2011年3月号)

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【2023年の追記】

10年以上前の時点で、「若者の○○離れ」というのはすでにメディアの常套句として手垢のついた扱いだったようです。最近では、「若者の○○離れ」とは、すなわちただの「若者のお金離れ」であることがすっかりバレてしまいました。そして今や若者に限らず「庶民のお金離れ」が進んだ結果、メディアはことさらに「若者の○○離れ」を喧伝しなくなり、「メディアの『若者の○○離れ』離れ」が起きています。

しかし、いくら妄想のギャグとはいえ、日常の振る舞いにセックスアピールを潜ませているという発想は、30歳直前の血気盛んな当時だったからこそ出てくるものだったな、と振り返って思います。40歳になった今、そんなこと思わないし、思いつかないもの。そんなに常日頃「セックスの可能性」を嗅ぎ回って生きてないもの。

そう考えると、今の若い人たちはどんなものに対して「直接的ではない性の匂い」を感じているのでしょうか。料理系動画のインフルエンサーがなぜか黒い手袋で食べ物をわしづかみにするその荒々しい手つき? ジャンボリミッキーの「ズンズン」のところ? 『すずめの戸締まり』というタイトルからそこはかとなく漂う「蟻の門渡り」的な隠語感? 「キッチンポリ袋」に隠された「チンポ」の部分?

ちょっとその謎を解き明かす旅に出てこようと思います。しばらく帰ってこれないかもしれませんが探さないでください。

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