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養豚術の呪い 3

ケース3
母の呪いの呪縛

母の電話は長い。
要件を先に言わない。
やれ、結婚しないのか?とか、親戚の娘は、ひ孫までみせてくれているなど、ご近所の情報から、父親の愚痴、しまいには出戻っている妹や孫の愚痴まで、一通り話して、
「ねぇ、帰ってこないの?あんた暇なんでしょ。
姪っ子の面倒ぐらい、みてくれてもよいでしょ」

最後に本音がでるのである。
そして、決まって言うセリフが
「あんたはおねぇちゃんなんだから」
そんな時だけ、姉というとても便利な言葉を使う。

あんだけ、孫に毎日会えるとウキウキだったくせに、いざとなると、面倒みきれなくなっているのだ。妹は、両親に甘えるのが昔からから上手だった。容姿も良いせいもあり、昔からワガママ放題で、尻拭いは、いつも姉の自分だった。

「私は行かない、暇でもない」
夏美は、母親にそう言って切ろうとすると、
「今週末だけでもよいから」
あまりにも食い下がる母に、結子の話しを思い出し、
「シャケ」
と言ったが逆効果だった。

「シャケが食べたいの?用意しとくわよ。あんたが好きなもの用意しとくから」

「とりあえず、今週末は無理。
またこっちから連絡する」

強引に電話を切った。

親毒っていう言葉が流行り始めて、改めて自分の親も、親毒だなって思い、自分が結婚や子供を産まなくても、改めて思った。

結子や裕美の年賀状に映し出されたな写真とは、裏腹に、真逆のコメントを書かれていた。
最初は、自分に気遣っていたのかと思っていたが、リアルな嘆きとなっていた。

だから、久々の裕美のリトリートのハガキは、なんだかいろんな呪縛が解けたように思えた。

夏美は、高校してすぐ地方の大学にいき、今まで一人で生活をしていた。すぐ下の妹と違って、容姿もよくなく、母の毎日のように言われてきた言葉がある。

あんたは不細工な顔だね。
同じ姉妹でもこうも違うんだね。
その呪いは、歳を重ねるごとに強くなってきた。

自分は不細工だ。

だから、人並み幸せは無理って。
二次元のアニメにのめり込んでいた。
結子に呪術廻戦を教えたのは、自分だ。
だから、おにぎりの具で夫をギャフンと言わせた話しは、痛快だった。

自分には、そんなギャフンといわせたい相手はいない。

本当にギャフンと言わせたい相手は、母親だ。
でも、母親にはおにぎりの具の言葉は、おにぎりの具でもなく、母の言いように変換されていく。

母も、決して容姿がよいほうではなく、それは祖母からくる呪いを受け継ぎ、私へと受け継がれた。 

母の異様なイケメン好きは、きっとそこからきているのかもしれない。
顔だけで選んだ父親でも、妹という傑作ができたのなら、祖母から母への呪いは解けたのかもしれない。

夏美は、母のようにはならない。
遺伝子を残したくはない。
もう、この呪いは、自分の代で終わらせる。

母の呪いに気づいて、それを解くには、
生まれる前に戻らないといけない。

異次元の世界は、夏美にさまざまな世界をくれる。
呪術廻戦だろうが、鬼滅の刃だろうが、
ワンピースだろうが。
少年マンガにハマったのも、少女マンガは、呪いの温床のように夏美に忍び寄るからだ。

美人は得である、それが立証されるのが少女マンガのような気がしたからだ。

最近、アニメ好きの人達とあつまり、コスプレをする様になった。
自分の顔が、メイクやウィッグをして、好きなキャラクターに近づく様は、爽快だ。

母からの呪いの呪縛は、違う自分に変身したときに面影もなくなるような気がしている。

夏美は、インスタに投稿した、まるで別人の様な、自分のコスプレ写真を見つめていた。
そこにDMが届いていた。

「こんど一緒にコスしませんか?」

夏美の世界が一歩広がった瞬間だった。

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