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ヴェネツィア・ビエンナーレ建築展、続編。

 2日目に見学したアルセナーレ会場は、前日のジャルディーニ会場ほどがらんどうということもなく、いい具合に、お互い邪魔にならない程度に人がいたものの、やはり入場はもちろん、昼食時もお手洗いも、一度も並ぶ事なく、過ごした。これまでで最も快適なビエンナーレだったかもしれない。
 
 こちらは、文字通りの元造船場(アルセナーレ、Arsenale)、海運・貿易・軍事で地中海の覇権を競ったかつてのヴェネツィア共和国の要であり、最大2000人が働いていた。1980年、第1回建築ビエンナーレの際に初めて展示会場として使用、以降、交互開催の美術展、建築展の会場となっている。
 コルデリエ(Corderie)と呼ばれる、入り口を入って最初の建物は16世紀のもので、横21メートル、長さ317メートル、高さ12メートル超。現在は、両ビエンナーレの企画展、すなわち、その年に任命された総合キュレーターが直接、自らが提示したテーマに沿って展示を行う場となっている。今年、総合キュレーターを勤めたのは、ガーナ系スコットランド人の女性で建築家・評論家・小説家・・・と自身多様な顔を持つ、レスリー・ロッコ(Lesley Lokko)。
彼女の掲げた「Laboratory of the Future」というテーマは、ビエンナーレ建築展の原点に立ち返り、その存在意義を問うような、シンプルかつ奥の深いものとなった。


 「建築展」とは何か。毎回、このビエンナーレの建築展が巡る2年ごとに突きつけられるテーマである。美術品と異なり、「建築」物そのものの展示はほぼ難しく、従って、図面、模型、写真や映像を見えるのが王道だろう。今回はまず、そうした王道の展示が極端に少なかった。
 加えて、これまでの建築展であれば必ずそこここ登場した、イタリアで「アルキスター(Archstar)」と呼ばれる世界的に著名な建築家らがほとんど(全く)登場しない。国際建築展なのだから、著名建築家や話題の建築物の、図面や模型、写真を見たいと自然に期待してきた人には、確かに拍子抜けで、がっかりだったのかもしれない。建築の専門家にとってはもちろん、素人にとっても、模型や図面はなんとなくカッコいいし、「映え」るから、表面的な満足度も高い。だが考えてみれば、そうした作品については、雑誌や書籍、ネット上などあらゆるところで発表、紹介されており情報を手に入れるのは難しくない。
 「サウスグローバル」というらしい、アジアやアフリカの現場から、未来を構築していくためのアイディアや実験、提案が並ぶ。その一つ一つの作家のキャプションに顔写真をつけたことで、全く単純なことながら、それが単なる机上の空論ではなく、試行錯誤の上に生まれた、血と肉の通った作品であることを実感できる。 
 「未来の実験場」とのタイトルそのままに、「建築とは何か」、この考察こそが、「建築展とは何か」への回答になっているように思えた。

 一部の建築フリークには、建築らしい展示がないと批判されているようだが、部外者からするとむしろ、よくやった!!!と拍手を送りたい気持ちがした。入場料は取るし、入場者数も気にしていないわけではないけれど、商業施設のショウでない、国を母体とする文化財団による展覧会だからこそ、表面的な売れ行きや評判だけに左右されるのではない、「質」を求め、内容を問う、考えるイベントであって欲しい。実は、現在開催中の「ヴェネツィア国際映画祭」も主催者は同じ、ビエンナーレ財団であり、映画祭自体も正式には「ヴェネツィア国際映像芸術展」という。人目を引く作品が少ない年などに避難されると「あくまでも芸術展であり、フェスティバルではないから」と突っぱねてきた。映画もアートも建築も、実際には、その回ごとのディレクター、キュレターの考えによるところが大きい。ただ、そうして一旦は全てを任された人に自由裁量を与え、責任も負う。
 気候や資源といった環境、そして社会問題に直結する建築、その建築展は実はこれまでも結構年によりブレがあった。おそらく次回は、少し「クラシックな」建築展に揺り戻しがあるのではと想像する。それも含めて、その自由度の高さがヴェネツィア・ビエンナーレの魅力であり、実力だと思う。次はどう出るか、楽しみでもある。


 ビエンナーレ建築展、もう少し続きます。

第18回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展
18° Mostra Internazionale di Architettura
20 mag - 26 nov 2023
https://www.labiennale.org/en/architecture/2023

9 set 2023

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