見出し画像

第18回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展 


 ローマもヴェネツィアも、夏休みの観光客でいっぱいの7月の週末。かなりの混雑を覚悟して向かった会場は、え?今日はひょっとして臨時休業?というほど閑散としていて、拍子抜けした。
 1885年に初の「国際美術展」を開催して以来、隔年で世界中の「今」を展示してきたビエンナーレ国際現代美術展の「ビエンナーレ(biennale)」は、2年とか隔年を示すイタリア語だが、そのまま今は、大規模かつ国際的な美術展などの名称としてあちこちで使われている。本家本元のヴェネツィアでは、その間の年に建築展を開催しており、今年第18回を迎えた。
 同じ会場で交互に行われる美術展と建築展、こうして見にくるのは何度目だろう?毎回駆け足で巡り、ただとりあえず写真を撮るだけで、それぞれ理解できているとはとても言えない、惰性とも思う、それでも、こうして同じ会場で、同じロゴを見るだけでやはりワクワクする。さあ、今年はどんな発見があるだろう?
 そうしてまず向かった、2つのメイン会場の一つ、ジャルディーニ会場にはなんと人もまばら。日本をはじめとする各国のパビリオンが並ぶ会場で、どこに入るにも一切並ばず。あちらもこちらも、大きな展示室を独り占めの気分を味わいながら、のんびりゆっくり見学した。

 これまで、ビエンナーレの見学は美術も建築も、あまり事前に予備知識を入れずに、全く予習もせずに素のままで行っていた。現場での印象を大切に、というと聞こえがいいけれど、普段、現代美術も建築も、専門で追っているわけではないから、ポイントを逃したり、よくわからないまま帰ってきてしまうこともしばしばだった。時間も限られ、暑い上に混雑もしているだろうし、今回は珍しく、以下の記事を事前に読んで、参考にさせていただいた。

https://casabrutus.com/categories/architecture/363941?fbclid=IwAR2RFfCDGVufm3EGjRJliOuPhEL0MtTFr6qmBrhZJgCFsxALsf7KkW-Xy3M

 まずは入ってすぐ、正面大通り右手にあるスイス館と、その次のヴェネズエラ館。会場内に、国別パビリオンが常駐で既に建っている、というだけでそもそも他の展覧会とは大きく異なるこのヴェネツィア・ビエンナーレで、それぞれ1952年、1954年に建てられた自館そのものを見直す。ブルーノ・ジャコメッティとカルロ・スカルパという建築家の交流を、レンガの壁を一部壊してベンチにすることで、建物の交流で見立てているのがおもしろい。

スイス館展示
スイス館、レンガの壁を一部壊してお隣のヴェネズエラ館が見えるように。
ヴェネツィア出身の建築家カルロ・スカルパの代表作の一つ、ヴェネズエラ館
ヴェネズエラ館展示

 ジャルディーニ(庭園)という会場に、30の「国別」パビリオンが常設され、美術・建築と交互に開催される展覧会で、パビリオンを持つ国は毎回同じ建物を使って展示をするヴェネツィア・ビエンナーレは、それが大きな特徴であり、魅力であると同時に、常設パビリオンを持たない国との違いが自ずと生じてしまうことがまた大きな問題でもある。もう一つのメイン会場であるアルセナーレ会場に国別のスペースを作るなど、主催者側でも工夫もしてきてはいるものの、この点についての問題提起は、これまでにもしばしば内外で、展示作品そのものでも示されてきた。


日本館外観

 日本を含む、固定の自館を持つ国々は、いろいろな意味で圧倒的に有利でありつつ、常設であるが故のジレンマもある。既存の建物の持つ制限や固定したイメージを超えるため、壁や天井の一部を壊したり、床下を見せたりという試みは、これまた既に常套手段になっているとも言えるだろう。
 自館の原点に立ち返る。コンセプトとしては、日本館もこの流れの上にあった。吉阪隆正さんの設計で1956年にオープンした日本館を当時のスケッチや日記などを紹介。吉阪さんがヴェネツィアで見た、例えば大聖堂の床モザイクなどを見て考えたこと、そのスケッチなどは、当時の新鮮で素直な驚きが見て取れて興味深い。展示では、彼の「ものをつくるとは、そのものに生命を移すことだ」という言葉から、建築を取り囲む環境や、刻まれてきた歴史を含めたものを建築として自らを表現した。
 高床式の建物の床の中央に開く四角い窓は、まさにこの日本館を特徴づけるポイントの1つであり、塞いだり取っ払ったり、下を覗けるようにしたりと毎回さまざまに活用されているが、今回はさらに、それに呼応する天井の角窓も取っ払って光を取り入れた。それを、ヴェネツィアの街中に点在する井戸に見立てて説明されていたが、私にはむしろ、大きさも形も違うけれど、これはローマのパンテオンを思わせた。

天井と床の穴を使った展示
地階から
参加型展示はどこでも人気

 並びにあるドイツ館では、昨年の美術展で使用された廃材などをごっそりと展示。よく見るとその一つ一つに由来、すなわちどのパビリオンで使われたものかが記されている。この何が建築展なのか?・・・そう考えさせられたら、おそらくこの展示は成功なのだろう。そして美術・建築と毎年繰り返さされるこの国際展で多かれ少なかれこの「廃棄物」が発生しているのであろうと思いをはせたところで、完全に彼らの思うツボと言える。もうこんな時代遅れのイベントはやめたらいいのか?いや、やっぱりこれも含めて、また来年も再来年も見たい、そう思わされてしまうのだから。

ドイツ館展示
ドイツ館ワークショップ

 日本の左隣のロシア館は休館。昨年の美術展は、当初は出展が決まっていたものの、4月の開幕前に辞退が発表された。今年は初めから不参加が当然という扱いだった。一刻も早く平和を取り戻し、またこの場で出会えることを心から願っている。

ロシア館(閉館)

 ビエンナーレの感想は、だらだらと長くなりがちなのだけれど、もう少し、(何回かに分けて)綴って行こうと思う。

第18回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展
18° Mostra Internazionale di Architettura
20 mag - 26 nov 2023
https://www.labiennale.org/en/architecture/2023

15 ago 2023


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?