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「非居住建築」展

 イタリアのいわゆる主要な「建築雑誌」は、いずれも住宅ー居住空間ーをテーマとしているのだそうだ。”Casabella(美しい家)"、 “Domus(邸宅)”、 “Abitare(住む)”・・・確かに。

 毎月、第一日曜日は、国立の美術館・博物館施設が無料になる。ローマならコロッセオやフォロロマーノ、フィレンツェならウフィッツィ美術館などを含み、猛烈に行列するものの、住民、観光客ともに人気ですっかり定着しつつある。国立以外の公立美術館も、これに合わせて無料にしているところも多く、ローマ市の美術館群も同様。ここにはたとえば、カピトリーニ美術館などが含まれる。
 初夏の日差しとなった先週の日曜日、行列するほどの気力もなく、そんな中でもきっと空いているであろうチェントラーレ・モンテマルティーニ博物館に友人と出かけた。元発電所の大きな建物を利用したこの博物館は、100年前の大きな蒸気機械を残しつつ、市内で発掘されたローマ時代の彫像だの床モザイクなどが展示されていて、大好きな場所の一つ。知名度がまだ低いのと、メインの観光地から少し離れていることもあって、オススメだけど、あまり知られないよう、このままそっとしておきたいようなそんな博物館なのだが、今回は今までで最もたくさんの来館者に出会った。
 力まずにふらりと寄った博物館で開催中だった、「非居住建築(architetture inabitabili)」展がとてもよかった。「建築」といえば、まず「住む」が基本のイタリアにおいて、「非居住建築」とは何なのか。

Campanile di Curon, Lago di Resia, Bolzano


 ダムに沈んだ村の「クリオンの鐘楼(Campanile di Curon)」(トレンティーノ・アルト・アディジェ州ボルツァーノ県)。丘陵地帯の起伏そのままに、石積みで造られた小屋の並ぶ「パルメンティ公園(Parco dei Palmenti)」(バジリカータ州、ポテンツァ県)。まるでムーミン谷の村のようだが、住宅ではなく、ぶどう農家の作業小屋として作られたものらしい。

Parco dei Palmenti, Pietragalla, Potenza
Ex Seccatosi del Tabacco, Citta' del Castello, Perugia

「元タバコ乾燥工場(Ex Seccatoi del Tabacco)」(ウンブリア州ペルージャ県)に、カルロ・スカルパの建築として知られる「ブリオン墓地(Memoriale Brion)」(ヴェネト州トレヴィーゾ県)。

Memoriale Brion, San Vito di Altivole, Treviso

地震による被災地の瓦礫を、土地ごとセメントの建造物で覆った、アルベルト・ブッリのアート作品「巨大な亀裂(Grande Cretto)」(シチリア州トラパニ県)。

Grande Cretto, Gibellina, Trapani
Lingotto, Torino

近代イタリアの経済を牽引した屋上テストコースつきのFIAT自動車工場「リンゴット(Lingotto)」(トリノ)。ジオ・ポンティによる「白い塔(Torre Bianca)」(ミラノ)、そして、この博物館、つまり元発電工場の近くにある「ガス工場(Gazometro)」(ローマ)。

Torre Bianca, Milanoi

 これらの建築物を、写真と、一部映像で紹介している。非居住建築といえばイタリアは、コロッセオだの、それこそたくさんの教会もあるけれど、これらはつまり、イタリアの近代の建築であり(意外にも、ムーミン谷もどきのパルメンティも19世紀のものらしい)、そして既に過去の記憶を留める遺産になっている、なりつつあるものたちなのだった。どれも印象的な「建築」、そしてそれぞれの写真がまたとてもよい。

 「浮世絵」展のような、大規模な展覧会ではないが、会場にふさわしい、興味深い展覧会だった。


Gazometro, Roma

Architetture inabitabili
24 gen - 5 maggio 2024
Centrale Montemartini
https://www.centralemontemartini.org/it/mostra-evento/architetture-inabitabili
13 aprile 2024

#イタリア #ローマ #展覧会めぐり #建築 #イタリア近代建築 #近代遺産 #エッセイ  


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