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『さよなら怒り新党。有吉&夏目&マツコが魅せた多幸感』 テレビかじりつきVol.17

怒り新党が解散した。

贔屓の政党が政権を取れなかったことに有権者として生意気ながらも非力さを感じて溜め息。ただそれでも弘行先行き三久行く末、そしてマツコとの再会を待つことにしよう。

無駄に韻を踏んだ前置きはさておき、有吉弘行、夏目三久、マツコ・デラックスが揃った『怒り新党』はついに最終回を迎えた。

有吉さんが結婚を発表した直後に一夜限りの復活SPをやってくれただけでもありがたかったのに、ここにきて最後にまた夫婦共演を見せてくれるとはよもやよもやだ。もはや贅沢の極み。だから寂しいな、また見たいなとは安易に言わないでおくよ。これ以上を望むのは浅はかだ。

番組は一部事前収録された視聴者からのお便りをもとにした"雑談"コーナーに加え、人気企画『新・3大』の名ハイライト、生放送での3人のトークなど2時間たっぷりと楽しませてくれた。

『新・3大』では当時2つまでしか紹介出来ていなかったテニスのパラオリンピック日本代表・国枝選手のVTRを、東京オリンピック金メダルの映像を3つ目として添えて、6年半の時を経て完結させるという粋な演出にも感動した。

過去のVTRをただ流すのではなく、しっかりとワイプでスタジオの様子を映し、何やらキャッキャしながらリアクションする3人の姿を見せてくれたのも嬉しかった。

夏目ちゃんは今も昔も変わらず美しくて上品だ。余裕や柔らかい雰囲気はさらに増しているけど。当時を振り返るとその美貌はもとより、強烈な個性2人を前にしてもいかに彼女が負けずに立ち回っていたのか、その凄みを思い知る。

3人の掛け合いは延々と見ていられる。

夏目ちゃんは髪型やファッションでも視聴者を楽しませてくれた。マツコさんも認めるほど、彼女がいくら個性的な髪型や衣装をまとっても「女子アナのくせに」とはならず、鼻につくこともなく、番組の彩りのひとつとして迎えられていた。それは革新的なことだ。

伝説の名言も振り返られた。

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有吉さんにしてもマツコさんにしても、敵対的な構図を作って笑いを生むのが天才的に上手い。

今ほどコンプライアンス的にも厳しい風潮がなく、今よりも尖ってパワフルだった怪物2人を前にアシスタントの仕事を丁寧にこなしつつ、時に2人の着火剤となり、時にオブラートになり、ひるむことなく対峙していた夏目ちゃんはとてつもない。過去の映像で見るとあらためてマツコさんとの相性がとてもいいことに気付く。互いに良さを引き出し合える相手だったんだと思う。

最後に夏目ちゃんはマツコさんへの感謝をスピーチしていたけれど、いち視聴者としてもマツコ・デラックスというタレントの懐の深さを再認識する機会になった。教養を備えた舌鋒の鋭さを多彩な切り口で展開しつつ、そのキャラクターとバランス感覚によって一切の悪意を蒸発させてユーモラスに成立させるパワーは圧倒的だ。

いわゆる"女子アナ"に基本的には当たりの強いマツコさんが徐々に夏目三久という存在を女性アナウンサーとして、またひとりの女性として認めていく過程もこの10年における見どころのひとつだったのかもしれない。

有吉・夏目の2人の前だからこそ心置きなく弱さも含んだ本音をぶつけられる空間が『怒り新党』にはあったように映る。この放送回を見ても、2人に対するマツコさんの信頼感が伝わってきた。

マツコさんが有吉さんに向けた言葉は誰にも奪われないような説得力と純粋な響きを持って印象的だった。

「天下を取り、綺麗な女房をもらい、幸せになることへの恐怖みたいなものを和らげてくれた。どっかでね、幸せになっちゃいけないんだって。あるじゃない、そういうの。それをこんな身近な人がね、堂々とそれをやっても、有吉弘行という人の価値を落とすことなく幸福になったっていうのはね。ちょっとのぞみですよ、私の」

幸せになっていいんだと、自分もそうなりたいと、言葉ではなくその生き様で見せて信じさせてくれる人ってめちゃくちゃ素敵じゃないか。

有吉弘行&夏目三久という2人の魅力についてはあの鶴瓶師匠もAスタプラスにてベタ褒めしていた。

僕が有吉さんを好きな理由のひとつに、「予定調和を壊してくれる痛快さ」がある。有吉さんは毒にも薬にもならないような安直な物言いをせず、常に予定調和や惰性をぶった切ってくれるようなLIVE感を備えている。誰かが言葉尻で隙を見せようものなら逃さず捉えて核心をえぐる。

有吉さんが多くの同業者から畏敬の念を持たれるのは、このヒリヒリするような緊張感(現場によって濃度を絶妙に調整しつつも)を携えているからだと思う。僕はいつもテレビを見ながらその気持ちのいい裏切りや予期せぬ転調に期待している。

孤高の芸人だから独身を貫くだろう。
結婚しても共演はおろか、一切その話題を口にしないだろう。
結婚したら芸人はつまらなくなる。

そんな手垢のついた予想や外野の野次を痛快に裏切ってぶち壊してくれる姿に、またいっそう僕は魅了されている。

この改編期でも多くの素晴らしいテレビ番組が最後を迎えたが、『怒り新党』が見せた有終の美はバラエティにおけるひとつの理想形にしてテレビというメディアの豊かさを再定義するほど多幸感に満ちたものだったと思う。



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