風の遺跡

風の遺跡

巫女の行く先

 少しばかりの水と供え物を持って少女は村の者と別れた。風の神のいる遺跡へ巫女として向かう為だ。獣も盗賊もいつ出てもおかしくない広い砂漠を独り歩く。
 延々と歩き水も尽きてきた頃、行商人と出会った。
「お嬢さんお嬢さん、水はいかがかね」
 少女は近くへ歩み寄る。
「おじさん、この暑い中お疲れ様です。ごめんなさい、お金は持っていないの」
「ええ? お金を持ってない? あんた、そんな軽装で歩いてどこまで行くんだい」
「私は、このお供物を持って遺跡へ参るところです」
「ああ。はぁ、あんた巫女さんかい。……水はまだあるかい?」
 少女は俯いてしまう。
「ないのかい? 遺跡まではまだまだあるよ。それじゃあ遺跡へ着く前にあんた倒れちまうよ」
「……でも、お金はないの」
 大丈夫よ、なんとかするわ。そう言いかけた時、いつの間にか後ろへ男が立っていた。
「物売り、水をくれ」
 行商人も驚いていた。
「ああ、水ね。ちょいとお待ちよ」
「これで買えるだけくれ」
 じゃらりと行商人の掌いっぱいに銀貨が渡される。
「こ、こんなに? 旦那、これじゃ瓶の水全部渡しても足りねぇや」
 並の男よりも大きなこの男の顔は、頭巾に隠れて表情は窺えない。服装からするに剣士か、魔術師か。はたまた盗賊か。
「仕方ない。では水入れへ入るだけもらおう」
 男は見事な装飾の入った水入れを出す。そして、少女へ手を差し出す。
「ほら、君のもだよ」
「え。あ……あの、私は」
「盗み聞きって訳じゃないが、話は聞こえていた。水がなくて困っているんだろう? 君の分も私が買おう」
 思わず、行商人の顔色を窺う。行商人は笑顔で頷いた。一瞬ためらったが、ここは男に甘えることにした。
「ありがとうございます」
 水は音をたて、並々と注がれた。
「それで、だな」
 水を受け取ったところで男は切り出した。
「巫女さん。私も遺跡へ向かうところなのだが、詳しい道を知らなくて困っているんだ。君が良ければついて行ってもいいかな?」
「ああ、そうだったんですね。もちろんです。喜んでご案内しますわ」
 当分の食料も買い、二人は行商人を見送った。

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