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留置場の日常~その4~

 朝はアラームはつけるが、警察で働き出してからアラームの10分前ぐらいには目覚める癖がついていた。7時にリビングへ向かう。父は出かける寸前である。
 「今日は仕事か?」
とぶっきらぼうに飛んできた。
 「もちろん24時間勤務だ!」
と強く返事をした(笑)。
妹は休みなのか起きてこない。玄米、卵焼き、鯖、味噌汁、納豆という定番メニューをしっかり食べて、身だしなみを整えて、愛車の自転車で警察署へ向かうのである。
 今日はあいにくの曇天。少しなぜか身構えて出勤する誠司であった。
 8時、勤務する警察署に到着。出勤カードを登録し、着替えを済ませて、留置場フロアへ向かう。部長、課長への挨拶を済ませて、留置場内へ入る。スタッフ詰め所には、交番で仮眠をとる二弾ベッドが3台、冷蔵庫がある。いつものベッドに荷物を置き、少し早いがひげそり場と貸した運動場へ進む。今日は入浴日の木曜日である。廊下には風呂場のドアの前に着換えのラックが三つ置かれている。
 「おはようございます。入ります!」
と大きな声で運動場といっても2m×8mの限られたスペースに入る。今日も無事24時間が過ぎますようにと祈りながら。
 8時半を過ぎた頃から昨日の勤務スタッフが順に
「2名入ります~~」
と言って号令とともに留置されている面々を運動場へ誘導案内する。もちろん髭剃りや爪切りの希望のない人は出なくてもいい。
 スタッフ6名程に囲まれつつ5名の面々がひげそりや爪切りをしている。
 この時間はある程度の会話は黙認するので、数名も少し断章していた。
 詐欺社長と解体屋の社長は穏やかに誠司に声をかける。
 「今日も暑いっすね~」
とさわやかに解体屋の社長も続く。
 「僕、取り調べで朝も午後もあるみたいです。昨日言われました~」
と詐欺社長。誠司は詐欺社長の背中やふくらはぎ、背中、しっかりしている骨格と太ももを見て、会話したことを覚えている。
 「結構鍛えていますね。ふくらはぎ、背中、しっかりしてますね」
と声をかけた。
 「元は野球と極真空手を15年ほどやってました。今はSpartanレースに出たり、HIITトレーニング、トレイルランを3年ほどしています」
と詐欺社長からの返答があった。
 詐欺社長はどうやら補助金が出ますと言ったことがネックで逮捕されたようである。補助金が取れなかった被害者一部に被害届を出されたらしい。そもそも皆に補助金取れなかった方々には謝り、返金もしていたようである。
 誠司もHIITトレーニングをしているので、2日に1日、HIITトレーニングをしている彼の体力を理解できる。なかなかのもんである。
 しかし、彼のふくらはぎ、背中、太ももを踏まえると、相当食事も節制し、取組んでいた証拠だと思う。
 そういったことを思い出しながら、誠司は、
 「昨日も筋トレしたん?」
と聞くと、
 「自重でスクワット200回と腕立て150回だけです。ダッシュできないので、辛いです」
と。少し穏やかな会話を提供することも大事だと思っている。日常からいきなりTVなし、携帯電話なし、インターネットなしの生活である。さすがに苦しいだろう。そう考えているそばで、
 「こいつ、ずっと筋トレしてるから、俺もやり始めたわ」
と解体屋社長も嬉しそうに話している。大笑いしながら、胸筋をアピールする姿勢である。
朝のこういった穏やかな時間も捨てたもんじゃない。


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