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雲と水蒸気を観測できるか?これからの気象問題に挑む"フルノの防災"

「古野電気は海の会社」ということで公式noteのタイトルは「海の音」です。だけど実は海だけじゃありません!
今日はそのことを知っていただければと思います。

私たちが昔から作っている魚群探知機やレーダーは超音波や電波を使った製品ですが、この技術は日常の様々なところで活用されています。例えば携帯電話は電波を使って通信していますよね。
私たちのキャッチコピーは「見えないものを見る」。
見えないものを「探る」「測る」「送る」技術で、安全・安心で快適な社会の実現に貢献することを事業テーマにしています。

今回は海からもう少し目線を上の方をあげて、空の見えないものに挑む社員について特集します。

FURUNOの気象レーダーの礎を作る。参考にしたのは舶用レーダー?

FURUNOは舶用機器で培ったレーダー技術を応用し、気象レーダーの開発を行なっています。
近年、ゲリラ豪雨や線状降水帯など、従来では想定されていなかった異常気象が問題になり注目を浴びている気象レーダー。
その研究開発に新人時代から従事している箕輪 昌裕さんにお話を伺いました。

箕輪 昌裕
2011年入社。新入社員時から研究部に配属され、気象レーダーの研究開発に従事する。大学院時に取り組んでいた電波天文学の経験からマイクロ波放射計を用いた水蒸気観測にも着手。雲カメラと水蒸気観測装置で気象観測の精度向上に挑む。
将来の夢はJAZZ喫茶のマスターになること。

箕輪さん「FURUNOに入社して10年間、ずっと気象レーダーに携わってきましたね。私が配属されたころはまだ気象レーダーはほぼスタートラインの状態、アンテナの試作品が出来上がった頃でしたし、中身も舶用レーダーのデモ機を流用していました。
ただ最初の気象レーダーの試作機はノイズだらけで雨どころかほとんど何も見えませんでしたね(笑)」

初期の気象レーダー、エレベーターに乗るサイズにこだわったそう

そこで箕輪さんに最初に与えられたミッションは"気象レーダー試作機で船がどう映っているか"を調査することでした。卵の状態から関わったことで様々な経験をすることができたと箕輪さんは当時を振り返ります。

箕輪さん「雨は小さくて映りにくいものなので、まずは船という大きくて映りやすいものからスタートしました。映像の写り方の基礎を徹底的に学び、何をどう調整すれば気象レーダーで欲しい映像が見えるのか?を研究していましたね。プログラミングも学んで、何度もデータ解析とレーダーの改良を繰り返しました。
その中で「こう調整すれば船がよく映るのか」ということを理解し、「じゃあ雨をきれいに映すにはどうしたらいい?」と悩む、そんな一進一退の日々でした。なので初めて大阪湾に降る雨が映像になったときは嬉しかったですね。そのときは雨だけじゃなく、陸も船も映ってしまいましたけど(笑)」

その後も改良を重ねて竜巻や雹の観測にも成功!

研究部の10%ルールをフル活用!自身の知見を結集した水蒸気観測装置を開発!

現在、箕輪さんが推し進めているプロジェクトは「雲カメラ&水蒸気観測」で、学会や研究誌などでも注目されている研究です。
なんとその構想を始めたのは入社2年目の年、そこには箕輪さんだからこそ思い当たった、これまでの経験があると言います。

箕輪さん「気象レーダーで雨を見るだけじゃなくて、雲や水蒸気を観測することって重要なんじゃないかと思っていました。
現に気象学会などに参加し、いろんな研究者の方々とお話させてもらう中でも『雨の前兆の雲や水蒸気が見たい』『水蒸気が見えたら気象レーダーの100倍素晴らしい』なんて声をいただきまして、これはぜひやりたいなと考えるようになりました。」

そこで箕輪さんが活用したのが研究部の10%ルール。これは業務の10%の時間を自身がやりたい研究に費やしてもよい、というルールです。
予算や時間をある程度自由に使わせてもらえることで、自分の研究として少しずつ前に進めることができたとのことです。

そもそもこの発想の原点はどこにあったのか伺ってみると箕輪さんのルーツが見えてきました。

箕輪さん「大学、大学院では電波天文学の研究室に所属していました。星や星の卵が出す電波(マイクロ波)を特別な望遠鏡で観測する研究です。
星が出す電波はとても弱く、効率的に観測するには乾燥した地域に望遠鏡を設置する必要があります。それでも空気中に水蒸気があると、観測効率が落ちるので『邪魔だなぁ』なんて思っていました。なので電波天文学の知識を応用すれば水蒸気が見えるというのは肌で知っていたのかもしれません。
昔は邪魔だと思っていた水蒸気を今は見たい!と思っているのは面白いですよね。」

大学の研究室時代、背景の白いドームが電波望遠鏡

その後も気象レーダーをメインでやりつつ、雲・水蒸気観測の研究へ取り組む日々が続きました。そこにひとつの転機が訪れます。

箕輪さん「気象レーダーが製品化することとなり、気象レーダーチームは製品化チームと研究部に残る方とで分かれることになりました。
製品化チームに配属された場合は雲・水蒸気観測の研究はしばらくできないなと思っていたのですが、当時の研究部長が『研究部に残してあげたら』と言ってくださったおかげで研究を続けることができました。ありがたかったですね。」

メインの業務となったことで研究は進み、社内でトライアルが加速することに

研究だけじゃ生き残れない。ベンチャー企業さながらのなんでもやる力。

研究部に残ったことで雲・水蒸気観測がメイン業務となり、次第に仲間も加わり、チームとして活動することになったそうです。
しかし新たな課題も見えてきたといいます。

箕輪さん「雲・水蒸気観測チームにアナログや信号処理のスペシャリストたちが入ってくれて徐々に研究は形になっていきました。しかし問題はこの装置を誰にどうやって売るのか?ということでした。」

従来FURUNOの研究部では舶用機器に関する研究が多い中、箕輪さんのプロジェクトは今までのとは異なる客層、全て手探りだったとのことです。

箕輪さん「有益な観測データを得るために試作機をいろんなところに設置したいのですが、そのため許可や法律・試験関連も自分たちで調べてクリアしないといけませんでした。そして設置自体も自分達でやるのがほとんど。
さらにそのデータを大学などに持っていって営業し、新たな設置先を開拓したり、データを利用してもらったり。そういったことは初めてだったので苦労しましたね。」

潮岬での設置風景、チームで様々なところに出向いてトライアルを繰り返しました

「研究」の枠を飛び越え、社外で様々なアクションを起こしたことはとても良かったと箕輪さんは言います。
「多くの方とお話しする機会を得て、新しいアイディアが思い浮かんだり、新しい繋がりを紹介していただけたり、、、
社内に留まっていたままだと研究は進まなかったかもしれないな」と箕輪さんは言います。

努力の甲斐もあり、多くの大学の先生方と共同研究を重ね、今では気象庁気象研究所やJAMSTEC(海洋研究開発機構)とも一緒に活動できていると誇らしげに語ってくださいました。

アメリカの学会にも参加、国内外に向けて活動範囲を広げています

"FURUNOの防災" がキャッチコピー。安心・安全な暮らしへの貢献を見据えて。

今、箕輪さんは雲カメラ&水蒸気観測で気象に関する問題解決に取り組んでいます。どのような展望をお持ちなのか伺いました。

箕輪さん「2年前ほどから九州などで線状降水帯が発生し、強い雨がまとまって降ることが問題視されています。その時に空気中の水蒸気が急激に増えたり、水蒸気が流入し続けることで雨が続くことがわかってきました。逆に流入が減ってくると雨は止む方向に変化します。
そこに水蒸気観測を活用できれば豪雨の予報はより正確になると思いますので、避難勧告やその計画の策定等に貢献できると思いますね。

また雲カメラは晴れているか、曇っているかがリアルタイムかつ視覚的にわかります。そのため例えば空港に設置している雲カメラは飛行機の離発着時の安全確認に活用できます。

さらに、太陽光発電に役立つ予測も雲カメラを活用してやってみようと思っていますね。太陽光発電は晴れと曇りが頻繁に入れ替わると、発電量が急激に変動して電気系統に悪影響を及ぼすことがあります。雲カメラを活用して発電量が急変しそうだと分かれば発電自体を制御することで電気系統を保護できる。そんなエネルギーマネジメントに貢献できると考えています。」

上空の雲の割合と水蒸気量、その他様々な気象データをリアルタイムで観測

水蒸気観測は安全・安心の社会の実現に、雲カメラはエネルギー問題の解決のサポートができると意気込みます。またFURUNOならではの展望もあるようです。

箕輪さん「世界中の船にFURUNO製品が搭載されているので、そこに雲カメラ、水蒸気観測装置も一緒に設置したり、製品に機能として搭載することなとができたらなと考えています。
陸上では様々な気象データが観測されているのですが、海のデータが少ないというのが課題になっています。
そこをFURUNOがこれまで培った事業と組み合わせることで課題解決に繋がりますね。気象情報は漁師さんにも役立つことが多いですしね。」

電源がないようなところでも使えるようにソーラーパネルも準備

すでに大学の調査船などには搭載してデータ収集を始めているそうですが、FURUNOのもつネットワークを活用して、世界中の様々な船に搭載することで気象のビックデータを生み出していきたいと話します。

FURUNOでは気象観測システムだけでなく、火山や地すべりなど地盤の変位を監視するシステムなどもあり、防災ソリューションは社内外で盛り上がりを見せています。
そうして"FURUNOの防災"を押し進めていく一員として活躍していきたいと抱負をいただいてインタビューを締め括ってくれました。

執筆 高津こうづ みなと

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