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どうやら女の子らしいんだ

【2010年7月19日】生まれる前、勝手に第1回。

「子供ができた」という報せを受ける1週間前、僕はバイク事故で死にかけた。走行中に前輪がパンクした原付バイクは横転し、そのまんまカーリングのストーンみたいに道路を滑ってクラッシュ。幸いなことに対向車も後続車もなく命を落とさずに済んだのでこの文章を書けている。神様ありがとう。

どこに向かう途中だったのかと言えば、劇団の稽古だった。

奥さんから妊娠の報せを聞いた後、僕が真っ先に思ったのは「あのまま知らずに死んでいたらどうなっていたんだろうなぁ」ということ。ふと、僕が死んでいた場合の子供の未来を想像してみた。子供は物心を付いた時、自分には父親がいないことに気付くだろう。友達から言われるかもしれない。

「おまえんち、父親いねーな」

“展開”というモノが分かっている子供であれば、父がかつて主宰していた劇団を観に行ったりするようになるはずだ。フルタ丸のことである。そこには老けた現劇団メンバーたちが「膝いてぇよ」とか「目尻の皺が消えないわ」なんて言いながらギリギリ頑張っていたりする。彼らが子供に話を聞くと、かつての主宰・フルタの子供だと言うではないか。こうして極道世界のルールに則り、劇団のトップとして迎え入れられる…という所まで考えてゾッとした。そもそも劇団はお金にならないということでタイヘン有名である。子供がそんな演劇などというトチ狂った世界に足を踏み入れることが怖くてたまらなくなったのだ。死んでる場合じゃないな、生きなきゃいけない。生きて子供の人生を見守っていこう。

というわけで、ペンを取った次第。

これから生まれてくる子供に許可を取りようがないので、一方的に子供について書き始める育児コラム。演劇の世界でウロウロしている自分から見つめる育児を書いていこうと。現在29歳。演劇やってる場合じゃない、のか。正直、それを感じたことはまだない。これから葛藤したりもするんだろうか。生まれてみないと何もかも分からない。

<文・フルタジュン>


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