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そして駅前へ

大きな垂れ幕に、
デカデカと名前が記された幌馬車ほろばしゃ
颯爽さっそうと現れ駅前のロータリーに停まる。
 
通行人は足を止め、
その様子をうかがう。
 
すると中からゾロゾロと、
派手な装備の人間が現れ、
一列に整列する。
 
一番若そうな青年が、
一歩前に出て喋り始める。
 
「私は勇者見習いです。
 私はこの国の勇者となり、
 国民の暮らしを守ります!
 ですからわたくしにみなさんの清き一票、
 よろしくお願いします」
 
そのまま若き見習い勇者は、
街頭演説を始めた。
 
すると…、
ひとりのサラリーマン男性が呪文を唱えた。
 
「俺の庭にモンスターが出て、
 車や植え込みをめちゃくちゃにしたんだ!
 なんでお前は助けてくれなかった!
 一市民を守れなくて何が勇者だ!
 帰れ!とっとと帰れ!」
 
勇者は大ダメージを受けた。
 
「すいません…
 僕はもうダメみたいです。
 これ以上は続けられません」
 
若き勇者はメンタルがスライム最弱だった。
 
ウグイスじょう僧侶が呪文をとなえた。
 
「勇者見習い様。大丈夫です。
 たったお一人で、
 全民衆を助けるなんて不可能なんです。
 目の前の困ってる人、
 ひとりひとりに手を差し伸べる…。
 今まで通りの姿勢をつらぬけば、
 きっといつか人々もわかってくれます」
 
勇者は少し回復した。
 
「わ、私はまだ未熟者みじゅくものです。
 ですが皆様のために勇者としての
 使命を果たすことをお約束します!」
 
すると…、
ひとりの買い物帰りの女性が呪文を唱えた。
 
「あなたに何ができるの?
 モンスターは倒せても、
 野菜の価格は下げられないでしょ?
 卵も魚も値上げ値上げでどうするの?
 そのうち自分でってきた、
 わけのわからないモンスター肉とかとか
 流通させるんじゃないでしょうね?」
 
勇者は痛恨つうこんの一撃で瀕死ひんしになった。
 
「もう無理です…これ以上は…。
 私の活動もここまでです」
 
すると後方から老戦士ろうせんしが現れる。
 
「見ておれんな…」
 
勇者見習いをかばうように、
立ちはだかる老戦士。
 
「民衆のみなさん。
 お手柔てやわらかにお願いします。
 この若き勇者はまだ駆け出しで、
 右も左もわかりません。
 が、しかし!
 真っ直ぐな心で、
 みなさまの役に立とうと、
 毎日、粉骨砕身ふんこつさいしん頑張っております。
 なにぶん不慣ふなれでございますが、
 温かい目で見守ってはくれまいか」
 
するとひとりの青年が混乱魔法を唱えた。
 
うるせえ!!ハゲ!!
 
老戦士は混乱した。
 
「誰がハゲだぁ~ん!
 今、ハゲって言った奴出てこい!!
 少し残っているだろうが~!
 だからわしは断じてハゲではない!! 
 とっつかまえて、
 魔物の巣に放り込んでやる!!」
 
さっきのサラリーマンが再び呪文を唱えた。
 
「お前みたいなのがいるから、
 いつまでたっても
 安心した暮らしができないんだ!!」
 
「じゃかましい!
 おい!黙っておとなしく聞いてりゃ、
 いい気になって!
 庭がモンスターに荒らされただぁあ?
 お前の責任だろうが!!
 一家のあるじのくせに自分の敷地も守れない、
 腰抜ふぬけのお前の責任だっ!!
 自分の不甲斐ふがいなさを人のせいにするな!
 
老戦士は混乱して狂戦士錯乱状態になっていた。
 
すると買い物帰りの女性が呪文を唱えた。
 
「そうやって民衆の話を
 まともに聞こうとしないから、
 どんどん国の経済が悪くなるのよ!
 悔しかったら、
 物価や消費税下げてみなさいよ!
 
「うるさ~~い!
 わしの知ったことか~!!
 国の財政は俺らが何とかしてるんだ!
 自分の家の財政ぐらい
 てめえでなんとかやりくりしろ!
 お前の旦那の収入の不満を、
 こっちに転嫁てんかするな~~!!

 
老戦士は呪文を跳ね返した。
 
魔法使いの女性がつぶやく。
 
「歳をとられたとはいえ、
 さすが伝説の勇者様。
 あの若き勇者もいつかは、
 ああなるのかしら…
 この世界…恐ろしいわ
 

 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

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