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強調・協調・調教

前回はこちら。 

ここは火星。
 
最新鋭居住スペース。
別名【新宝島】
 
「おい!聞こえるか?」
「よう!久しぶりだな飯坂」
 
「何だよ、元気そうじゃないか。
 この前の通話の時は、
 かなりヤバそうな顔してたから、
 安心した~。
 だって前回はギア5終わりの、
 ルフィーみたいな顔
してたよお前」
「そんなに?!
 相当、ひどかったんだな俺。
 まあ、あん時は色々あったからなあ。
 あれ?
 そう言えばワンピースってどうなった?」
 
連載れんさい終わったよ
「ウソ!
 俺が火星に来てる間に終わったの?」
 
「先月で最終話。
 何なら…読み聞かせようか?」
「何でだよ!
 漫画の読み聞かせって!
 それに約3年見てないから、
 1週間以上かかるだろ!
 だったら地球に帰ってから、
 まとめて読むよ

 
「そうか!…もうすぐだ」
「ああ。今日でちょうど2年11ヶ月
 
3年ってあっという間だな。
 どう?今の心境は?」
「もうすっかりここ火星の生活に、
 馴染なじんだから地球に戻れって、
 言われると正直、
 面倒だなあって思ったりするな。
 帰りの荷造りとか移動とか」
 
「お前らしいな。
 角野は地球に帰ったら、
 ワンピースを読む以外で、
 何かしたいことはあるのか?

結婚したいです!
 
「結婚?!誰と?」
「誰でもいいから誰かと!」
 
「お前、大丈夫か?」
「飯坂、ここの生活は俺に合ってた。

 全部、AIがやってくれるし、
 何不自由なく過ごせたよ。

 たったひとつ不満があるとすれば、
 ここには俺以外、人がいない!

 人がいないと人間って、
 どうなるか知ってるか?

 おかしくなるんだよ、飯坂!

 俺、毎日…
 AI相手に求婚してたんだぜ!
 
「それはヤバいな。
 ちなみにAIに求婚するとどうなんの?」
「もちろん断られるさ~。
 でも毎日してると、
 AIにも変化が出てくるんだ~
 
「何?恋愛感情ってこと?」
「いや、めちゃくちゃ口が悪くなる!
 俺に対して恐ろしいほどの口撃をする!
 そして最終的に水と食料止めてきたから、
 これはさすがにマズいと思って、
 謝罪した
 
「もう殺意じゃん。
 お前、相変わらずどこ行ってもバカだな」
「うるせえよ!
 だから地球に帰ったら奥さんを探すよ。
 会社に戻れば、
 俺は火星に行ったヒーローだろ?」
 
「それはどうだろ…。
 まあ歓迎かんげいはされるかな…」
何だよその歯切れの悪い言い方。
 あっ!思い出した!
 前に飯坂に、
 俺とお話したい女性社員、
 探してくれって頼んだよな?

 あれどうなった?」
 
「あ~あったね、そんなこと。
 あれはさ…聞いてみたんだけど、
 みんな忙しくて…
「嘘をつくな~!
 そんなはずはない!
 社員数1300人の大企業だぞ。
 ひとりぐらい暇な女性社員いるだろ!
 
「すまん、角野。
 実は一斉送信で社内の人に、
 お願いしてみたんだけど、
 1件も返信なかったんだ
「クソッ!
 俺の人気、クソッ!」
 
「まあまあ。
 間もなく3年の任期を終えて、
 地球に帰ってくれば、
 女性なんてたくさんいるんだから。
 地球人の半分は女性だろ?」
「そうか…そうだな!
 帰還すればもうそんなことで、
 気に病むこともなくなるな!」
 
「そ、そうだよ。
 角野はどんな女性がいいんだ?」
「女性のタイプか~。
 地球にいた頃はさ、
 ひかえめで物静かな人が良かった
けど、
 火星来てから変わったね」
 
「どういう風に?」
「やっぱり
 ハキハキした人がいいな!
 言いたいことを、
 はっきり言ってくれる人の方が、
 俺にはピッタリだってわかったよ。
 俺って人間のクズだし」
「自分のこと…
 クズって認識してたんだ」
 
ピピッピピッピピッ
 
「これ何の音?」
「着信だよ。
 誰だろ?」
 
「どうも、角野さん。
 総務の豊田です。
 どなたかとお話中でしたか?」
 
「どうも豊田さん。
 いま、同僚の飯坂と話してました」
「お疲れ様です豊田さん。
 飯坂です。
 何か重要なお話ですか?
 でしたら席外しますけど」
 
「大丈夫です。
 角野さんへのいつもの定期連絡です。
 そちらお変わりないですか?」
「今は大丈夫です。
 もうすぐ任期を終え、
 帰還できると思うと気分も違いますね。

 これを希望っていうんですかね?

 いま私は希望と期待で、
 胸がいっぱいです!

 
「任期って言いました?」
「はい。
 3年ですよね?…もうすぐ」
 
「ああ、はいはい。
 確かに3年です
「ダメですよ豊田さん。
 忘れないで下さいよ~」
 
「忘れてませんよ。
 契約けいやくですから。
 でも、まだ先ですよね?
さき?!
 3年だからあと1ヶ月でしょ?
 カレンダーに印までつけて、
 この日を待ち望んでたんですから!」
 
「角野さん、契約書…ちゃんと見ました?」
「み、見ましたよ!
 見た上でちゃんとハンコ押しました」
 
「手元にあります?」
「ありますよ。
 ちょっと待って下さいね。
 …はいはい、これです。
 間違いなく3年って、
 書いてありますよ」
 
その一番下の文字読めますか?
「一番下の文字…
 何か書いてあるな…
 何だ?このちっちゃい文字…
 ん?…
 契約期間は…火星で…の年数。
 ……?
 火星での年数?
 
地球の1年は365日。

 ですが火星の1年は687日です。
 角野さん…まだ折返しぐらいです。

 まだ先は長いので、
 あせらず頑張って下さい。では」
 
プチッ
 
「お~い!!
 火星の年数ってきたねえぞ~!
 俺を帰せよ~!!
 飯坂~!頼む~!
 上に掛け合ってくれよ~!!」
「わりぃ角野…
 ちょっと仕事で呼ばれた…また」
 
プチッ
 
「頼むよ~!
 人恋ひとこいしいんだよ~!
 誰でもいいから、
 相手してくれよ~!」
 
ウルサイ!
 ダマレ!カクノ!
 
 バンゴハン ヌクヨ!!

 
「は~い♪
 すいませ~ん♪」
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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