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さらわれた遊星

前作はこちら。

研究室。
 
「ちょっと、あなた怖くないんですか?」
「何が?」
 
だって私たち、
 宇宙人にさらわれたのよ?

「だから?」
 
「だからって…
 何でそんなに平気でいられるの?」
「いや、だってここって、
 三食昼寝付きだし、
 家にいた頃と変わらないから

 
「だって私たち…
 解剖されるかもしれないんだよ?
「そうかなあ~。
 オレには何か一生懸命、
 コミュニケーションを取ろうと
 してるように見えるけど…」
 
「そ、そう?
 私はダメ!
 もう~怖くて怖くて…」
「何がそんなに怖いの?」
 
「全部よ!
 この状況も宇宙人も全部!
 
 しかも、さっき見たでしょ!?
 
 裸で近づいてくるのよ!
 
 満面の笑顔で…
 こんにちは…って!

「ああ~
 あれは確かに、
 オレもヤバいって思った」
 
「でしょ?!
 何考えてるか分からないし…」
「でも、来た時と同じ人数だし、
 誰も解剖されてないんじゃない?
 
 それに持ち物も没収ぼっしゅうされてないし…
 
 オレたち…丁重ていちょうあつわれてない?
 客人としてもてなされてる感じがするけど

 
「それが奴らの手なのよ!」
「どの手のこと言ってるの?
 宇宙人、初見だよね?」
 
「そうだけど…
 あっ、スマホが…
 ………
 会社からだ…
「連絡?」
 
「うん。
 昨日の資料どこですか?…
 議事録が止まってます…
 頼んでおいた件、まだですか?
 明日のお弁当の注文どうしますか?
 って…
 私の心配しろよ!!
「誰も宇宙人につかまってるとは、
 思ってないだろうからね」
 
「にしてもよ!
 ひとりぐらい…
 
 どうしたの?
 体の調子はどう?
 無理しないでゆっくり休んで…
 
 って、ないんかい!!」
「いや、まだ連絡来るだけいいよ…
 オレなんか…誰からもないんだけど…
 
「え?!」
「オレも…仕事してるのに…

 大規模プロジェクトの一員…
 なんだけどなあ…
 
 どうしてひとりも…
 オレの進捗を聞いてこない…
 
 オレはいなくても同じ…
 いてもいなくても一緒…
 
 まあ確かに…
 思い返せばこの1ヶ月…
 会社の人とまともに会話してなかった…
 
 そうか…
 そういうことか…」
「あの~……大丈夫?
 元気……だして。
 
 きっとみんな自分の仕事で、
 手一杯
なのかもしれないし…
 
 今日はたまたまで…
 明日になればもう何十件と、
 催促さいそくの通知が来る…かも…」
 
「そうか…
 だから会社で…
 誰も話しかけて来ないのか…
 
 さらわれて初めて気付いたよ…
 オレってそういう存在なんだ…

「そんなことないよ!
 気にかけてくれてる人いるよ!
 それにほら!
 家族だって、きっと今頃!
 
「家族…
 そうか…
 オレ…家族のグループLINEに…
 入れてもらってない…

「え~?!
 ………
 あっ!
 ………家族から通知来た…
 ハッ!」
 
「………………」
「………ごめんなさい」
 
「いや、別にあやまることじゃないよ…。
 でもいいなあ…
 心配してくれる人がいて…
 
 オレこのまま、
 ここに居た方が幸せなのかも…

「そんなことない!
 きっと待ってくれている人はいるよ!
 ………
 ………
 ………
 じゃあ…
 これあげる!
 
「これは…」
私のお守りのキーホルダー!
 
「こんな大事なものもらえないよ!」
「いいの!
 あなたが持ってて!
 そして私とID交換して!

 
「え?!
 急に何?!」
私はあなたが無事に戻るのを、
 待ってる人になってあげる!
 
 だから、地球に戻ったら、
 それを私に返しに来て!
 
 そしてその時は…
 私に食事おごってね!

 
「!!
 ………あ、ありがとう。
 なんか…スゴくうれしい」
「うん…
 じゃあ、交換!」
 
ピッ!
ピッ!
 
「………
 どこに連れて行ってくれる?
 そもそも…
 どこに住んでるの?
「オレは…神奈川
 生まれは岩手だけど…」
 
「私、東京!
 よかった~!
 近くで~!
 ねえねえ、何食べる?
 どこの店にする?」
なんか…デートみたいだね…
 
「………」
「………」
 
デートで…いいんじゃない?
「…い、いいの?」
 
「うん………」
「わ、わかった…
 じゃあ、絶対このお守り返しに行くよ!
 
「うん…
 楽しみにしてる…」
「何ならお店、
 指定してくれてもいいよ!」
 
「わかった!
 じゃあ、美味しいお店探しておくから!
 帰るの、楽しみだね!
「ああ!
 地球に帰れる日が楽しみになったよ!
 
プシューーー!
 
◯▲☆□※◎!
 
「なになに?!」
「なんだ!?」
 
ピカッーーーー!!
 

東京。
 
「あれ?
 私…どうしてここに?
 何しようとしてたんだっけ…
 
 ……ん?
 もう18時…
 
 家に帰る途中だったのかなぁ…
 
 なんか頭がクラクラする…
 
ポンッ!
 
「ん?!
 誰から?
 知らないID…
 
 【今どこにいるの?】
 
 嫌だ…何この人…こわっ…
 ブロックしよう
 
ポチッ
 
新宿駅ホーム。
 
人混みの中…
電車を待つ女性。
 
すると突然…
腕をつかまれる。
 
「なに!?
 何ですか!!」
「ハアハアハア…
 み、見つけた…
 や、やっと…見つかっ…ハアハア」
 
「いや!
 誰ですか!?
 はなして下さい!!」
…オレのこと…
 覚えてないの?

 
「知りません!
 手を離して!!」
これ…
 ………
 これを…
 返しに来たんだ

 
「!!
 これ…私のお守り…
 あれ?!
 ど、どうして…あなたが?!」
それを君が…
 オレにあずけたんだ…
 場所はわからないけど、
 君とオレは…会う約束をして…

 
「私があなたと…
 会う…約束…?
 ………
 ………!!
 あなた…
 ………
 あなたは!
 あの時の!!

「思い出してくれた!?

 よかった~!
 ほんとよかった~!
 
 よく覚えてないけど…

 君のおかげで、
 ここにいられる感じがするんだ。

 本当にありがとう」
 
「そう、そうだ!
 私、約束した!
 あなたと…デート…
 ………」
「あのさあ…
 時間ある?
 よかったら…これからどう?」
「!!
 いいよ!
 ちょうど、行きたいお店があったの!
 
「よし!
 じゃあ、一緒に!!」
「うん!!」
 
2人は笑顔で、
電車に乗り込んだ。
 
 
研究室。
 
「うんうん!…うんうん!
 よがっだぁ~!
 ほんとによがったぁ~!
 ぶわぁぁーーーーん!!」
先輩!!
 どうしました?!
 大号泣じゃないですか!!
 鼻水までらして!!

 
「ぐすっ…だって…だってさ…
 あど実験に…
 参加してぐれだ…あの2人…
 無事に地球でもう一度…
 巡り会えだんだよ~!!
 べいちぁぁーーーーん!!」
「だってそれは、
 先輩が参加者全員に、
 何かお礼がしたいって、
 上手く取り計らったんでしょ?

 
「でもさ…でもさ…
 まさが…こんなに上手く…
 いぐど思ってながったがらぁ…
 チーーーーーン!」
「でも良かったですね。
 
 今回の調査では…
 少し地球人のことが理解できましたし…
 
 こうやって少しずつ、
 地球人とは距離を縮めて行きたいですね。
 
 そしていつかは私たちも、
 地球の人とランチしたいですね?

 
「ほんど~ありがどね~
 まだ~あおうね~地球の人だぢ~!」
 
「先輩…さっきから…
 ずっとなまってますよ
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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