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たぶん

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僕は時田ときた真守まもる
時をちょっとだけ戻すことができる。
 
たった1分…
1日5回の制限付き。
 
これは誰にも話してない…
僕だけの秘密。
 
この能力に気付いたのは、
22歳のクリスマス。
 
その日は…
付き合っていた彼女とベンチに座り、
ブルーにいろどられた
イルミネーションをながめてた。
 
寒空さむぞらに…
小雪がチラチラと降っていた。
 
(キレイだ…
 今年も、もうすぐ終わりかあ…)

僕はもう先のことを考えていた。
 
「そうだ…
 大晦日おおみそかなんだけど…」
 
僕の話をさえぎるように、
急に彼女がつぶやいた。
 
もう無理…別れましょ…
 
その言葉は、
僕の思考をうばった。
 
真っ白になった僕は、
言葉を発することもできなくなり…

ただ漠然ばくぜんと北風に舞う小雪を目で追った。
 
かける言葉も思いつかず…
彼女の顔を見ることもできず…
 
ただ…ただ…
時間は過ぎた。
 
彼女は僕の言葉を待っている。
 
うまく言葉が出ない僕。
嫌だ…という感情だけが胸を締め付けた。
 
どれくらいの沈黙ちんもくが続いたろう…。
 
やがて、
おさえきれなくなった感情が、
言葉として口かられた。
 
別れたくない!
 どうして別れるんだ?!

 
彼女は僕の言葉に、
目を大きく見開いた。
 
「ど、どうしたの急に?!」
「?!」
 
再び静寂せいじゃくが二人を包み込む。
 
そして彼女が口を開く。
 
別れたくないって何?
 真守…どうしたの?
 
 どうしてそんなこと、
 急に言い出すの?
 ……
 もしかして…
 あなた…私と同じこと考えてた?

 
辻褄つじつまの合わない会話。
 
まさかこの時、すでに…
時間が戻っていたとは…。
 
僕は当然…知らなかったんだ。
 
そして…
 
前からずっと言おうと思ってた…。
 ………
 もう無理…別れましょ。
 ………
 あなたはいい人…
 ………
 でもなぜか分からないけど…
 あなたは私をとても不安にさせるの…
 ………
 真守…好きだったよ…じゃあね

 
僕はこの日…
彼女に…二度、振られた。
 
あの時…
あの瞬間…
僕は変わったんだ。
 
彼女との未来を夢見ていた自分…。
 
そんなのは幻想まぼろしに過ぎないと…。
 
何度も何度も、
その日のことを思い出し、
何も答えてはくれない天井を…
ただ朝まで眺め続ける日々。
 
来る日も…
来る日も…
 
(なぜ…
 ………
 なんで…
 ………
 なにが…
 ………
 どうして…
 ………)
 
そして、ある日の朝。
 
(どうすれば…
 ………
 ………
 ………
 ………
 くだらない……
 
そう思えた。
 
僕は彼女を捨てた。
頭の中から存在を消去したんだ。
 
そしてその日から、
僕の興味は不思議な能力に移った。
 
彼女との別れは、
能力開花のための通過儀礼つうかぎれい

そう思うことにした。
 
そして僕は…
ついに禁忌タブーに手を出した。
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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