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元気の源

不思議そうな顔で商品を手に取り、
見つめている男性。
 
そして電話をかける。
 
「すいません。
 私、そちらの商品を、
 定期購入している山崎と申します。
 
 …いえいえ、
 こちらこそいつもお世話になってます。
 
 あの~今朝なんですけど。
 いつものようにポストを開けたんです。
 
 そしたらいつもと違うものが、
 入ってたんですよ。
 
 ええ~ええ~。
 いつもはヤクルト1000です。
 
 流行りにのってんなあ~
 ……って、何ですか急に!
 
 間違って配達した側なのに。
 
 いえいえ、じゃないですよ。

 私、昔から健康志向で、
 食べ物や飲み物にはこだわりがあって。
 
 わかります?
 そういうことなんです。
 
 まあ正直、こんなに人気になるまでは、
 存在すら知りませんでしたけど。
 
 やってんな~!
 …じゃないです!
 
 あなた本当にお客様窓口の方?
 
 ああ、ああ、そうですか部長さんで…。
 今はそういう時代なんですねぇ…。
 
 いやいや、そうじゃなくて。
 私のポストに別のものが入ってたんです。
 
 いやいや。
 そんな急にあやらなくても…。
 
 ええ、ええ、すぐに…
 いつものヤクルト1000と…
 お詫びの品を?
 
 ほんとに?
 いいんですか?
 
 そうですか?
 そこまで言われるなら、
 こっちは何も言いませんけど…。
 
 あともうひとついいですか?
 ちょっと気になることがありまして。
 
 そちらでヤクルト55って作りました?
 
 作ってない?ほんとに?
 それが入ってたんです、今朝。
 
 いやそちらの球団が昨年優勝されて、
 村上人気にあやかって…それはない。
 
 でもそれ名案ですね!頂きます!
 …って、あなたさっきから、
 ちょいちょい変ですよ!
 
 え?!
 …売上上げろって本社がうるさくて、
 ノルマが大変…それは辛いですね。
 
 ストレスで……
 ヤクルト1000の効き目もない。
 
 そんなこと職員が言っていいんですか?
 
 じゃないですよ!
 ヤクルト55です!
 
 じゃあこれは何ですか、
 ありもしない商品がうちに届いたって、
 いうことですか?
 
 でしょうね?
 …まあ、そうしか
 返答のしようがないですよね。
 
 正直、見た瞬間、
 おやっと思ったんです。
 
 特別なヤクルトかなとも思ったし、
 特殊詐欺かなっとも思いました。
 
 でもパッケージが、
 よくできてるんですよ、これ。
 
 見ました?
 見えない…そうか、そうですよね。
 
 あの色合いはそのままで、
 容器のデザインがユニフォームに、
 なってるんですよ。
 
 これ凄いなあって思っちゃって。
 
 ええ、ええ…
 はい、それはもちろん、飲みました。
 
 ええ、ええ…
 いま不安と後悔でいっぱいです。
 
 どうしてくれるんですか!
 
 飲んでもうすでに、
 1時間経過してますけど!
 
 いまのところ、
 特に異変もないけど!
 
  え?え?も?
 もう大丈夫じゃないかって?
 
 あとで、きたらどうするんですか!
 
 ん?
 うちの商品でない以上…当社では…
 一切責任負いかねません
 
 出た!定型文!
 いつものお決まり文句!
 
 そっちがそう来るなら、
 こっちも本音でいきますよ!
 
 私は健康志向と言いましたが、
 家族に心配かけないようにしようとか、
 会社に休まず行こうとか、
 健康な体を維持して、
 バリバリ仕事しようなんてことは、
 私はこれ~っぽっちも思ってない!

 
 正直、痛いのが怖い!
 
 体が痛いのが嫌!
 それだけ!
 
 さっき飲んだヤクルト55で、
 このあと腹痛になったら、
 どうしてくれるんだ!!
 
 医者に行け?!
 ごもっとも!!
 
 わかりました。
 
 じゃあまずはいつものヤクルト1000と、
 そちらの誠意の贈答品を、
 楽しみに待ってますよ。
 
 もうそろそろ届くはず?
 ほんと?早いですね。
 
 あれ?
 玄関でガタガタ音がする。
 
 ちょっとこのまま見に行きますね。
 
 あっ!入ってます。
 いつものヤクルト1000と、
 ……
 タフマンスーパー……、
 ……
 ……
 10本セットって…
 ……
 バリバリ働けってか!!


 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 


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