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MFA(美大修士)を修了した私が博士に進学したワケ

武蔵野美術大学の大学院の修士課程を修了し、博士後期課程に進学しました。現在D3、博士3年目です。

まずは一般的な定義ですが、大学院における「博士課程」の中には、「修士課程(博士前期課程)」と「博士後期課程」があります。
前期、後期とあるように、前期2年と後期3年の計5年を経て、学術研究者の卵として歩み、自立して活動を行える研究者としての一歩を踏み出していくことになります。
ただ、社会人学生としてキャリアに活かすための学業であったため、決して研究者になることを目指したかったわけではありません。では、なぜ博士に進学したのか、その理由をご紹介します。

博士進学を1ミリも考えていなかった修士当初

私が通っていた、造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコース(通称、ムサビCL)は2019年に新設され、1期生で入学しました。ムサビCLの博士はその時点でまだ設立されていなかったこともあり、そもそも修士入学の際には、博士の存在を認識していませんでした。修士1年の夏ごろでしょうか、学長が「博士課程の新設を予定している」という旨を学生に話してくださり、知ることになるのですが「へ〜作るんですね」と感想を述べた程度でした。

修士の1期生がそのまま進学した場合に、博士1期生として入学するということが想定されていたため、特に先輩などの情報や開示されている情報もなく、興味を持つこともなく修士を過ごしていました。

むしろ、前回の投稿で記載したように、学業に1600時間程度を割き、仕事との両立を図りながら生活をしている毎日で「これ以上は限界。これをあと三年続けるなんて考えられないな」と、進学は選択肢にも入れていませんでした。

修了制作展の準備にて挫折し、思い直す

修士論文の最終発表会を12月中旬に終え、修士も終盤に差し掛かり、3月中旬の修了制作展を残すのみでした。美大ならではですが、研究の成果をお披露目する展示会です。論文に加えて作品を制作し展示することに決めたので、1-2月は展示する作品やパネルの制作に打ち込んでいました。

その制作の過程で、あらゆる難題に幾度もぶつかり、四苦八苦することになります。具体的には、こちらの記事に記載していますが、制作を通じて多くの気づきを得ていくこととなりました。

展示するような機会も初めてであり、作品を制作することも不慣れであったため、中には、挫折のような瞬間もあり、このまま終わってしまっていいんだろうか、まだ美大で学ぶべきことを学びきれていないのではないか、という気持ちが膨らんでいったのです。

そのような日々を過ごす中、ムサビCLの博士の出願は2月22日でした(2021年度)。博士の初年度でもあり、コロナの関係で各種イベントが後ろ倒しされていたこともあり、出願のタイミングが2月末と遅かったのです。タイミングが少しでも早ければ、出願していなかったと思います。

修了制作展に向けた制作をしている過程で感じた、「学びの不足感」を補いたいと思い、博士の出願が頭によぎったのです。

博士に進学したワケ

では、具体的に「学びの不足感」についてどのようなものだったのか。
博士の試験は、小論文、英語、面接の3つであり、面接試験では、志望動機について説明する機会がありました。
試験日が3月22日であり、修了制作展の展示後のタイミングであったため、展示期間という最終ゴールを経て鮮明となった、自身のスキルの不足感を言語化することができるようになっていました。その面接で用意したプレゼン資料のスライドをご覧頂きつつ、ご紹介します。

修士で学べたこと

修士で体得できたことは多くありました。その中でも「美」に着目すると、「人間が美しいと感じるものが何かが少しわかるようになった」状態まで行き着くことができました。
左がインタンジブル(Intangible: 無形なもの)、右がタンジブル(Tangible: 有形なもの)という軸で切ると、紙面上にどう文字や写真を置くことをデザインするエディトリアルデザインあたり(紫色)まで、作品を見て美しいものになっているかを判断できるようになりました。

修士での学び @ 入試面接時のスライド

具体的には、修了制作展のA1パネルの制作などです。パネル上にどのように文字や図をデザインすると美しいかがわかるようになり、それを表現できるようになった、というのが自身のスキルの到達点でした。

博士で学びを深めたいこと

一方で、右側のタンジブルな表現においては道半ばだと感じました。椅子の制作に挑戦したものの、「美しい」と感じられるものに辿り着かなかったと感じました。展示前の段階でも、物足りなさを感じていましたが、展示期間中にたくさんのお客さんに見て頂いて、その反応を観察しているだけでも、自分自身の制作したものに「美しさ」が足りないことに気付かされたのです。

そのような気づきがあり、美大に在籍し続け、学びを深めたいと考えるようになりました。
学びを深めたいポイントは次の二つでした。一つ目は、「❶美しいTangibleなものを提案する態度と力を身に付けること」です。タンジブルなものを制作し、美しいタンジブルな表現を行うことが、美大で学び取るべき本質のポイントであり、そこまで辿り着きたいという想いでした。

志望動機 @ 入試面接時のスライド

二つ目は、「❷人間が美しいと感じるものが何かを言語化して共通意識を持てるようにしたい」です。美しいタンジブルな表現ができるようになった上で、それを言語化して、私のようなノンアーティスト・ノンデザイナーの方々にも理論を展開できるようにしたい、と考えました。

志望動機 @ 入試面接時のスライド

この二点を身に付けるために、本格的に実寸大の椅子の制作を行うことにしました。単なる椅子を制作するのではなく、アート作品として「美しい椅子」を表現することを目指し、アートワークの専門家である先生にご指導を受けることにしました。

「美しい椅子」の制作を通じて体得したものを、インタンジブルの世界に戻す、つまり、美しさやそのポイントを言語化することを目標としました。それにより、ビジョンやアイデア、ストーリーを策定する際に、より多くの人に響くものができるヒントが得られるのではないかと考えたのです。

研究アプローチ @ 入試面接時のスライド

まとめ

このように、修士の修了制作展に向けた準備の過程で、博士の進学を考え始めたということ、「美」を追求するために進学することにしたということです。あくまでも個人的な理由であるため一つの物語と捉えていただき、少しでも参考になればと思います。
今回の投稿が良い機会となり、久しぶりに博士の入試面接の時の資料を読み返したのですが、当初望んでいた学びはここに来て体得できたように感じています。
体得できた内容は年明けに公開しますのでお待ち頂けたらと思います。

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