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『明け方の若者たち』 「好き」の追体験。もう一度誰かを好きになる。【読書感想文】

こんばんは♡

実家帰省が終了し、自宅に帰ってくると中々本を読めなくて…やーっと最後まで読むことができました。

今回読んだのは、またしてもカツセマサヒコさん。
『明け方の若者たち』


20代の、日々激しく移り変わる日常。
仕事でも恋愛でも、人間関係でも…大きく変化する時期ですよね。
そんな大人の青春時代を切り取ったマジックアワー的な作品でした。




新しい本って、いつもドキドキしながら最初のページをめくっていく。
はじめの5行くらいで、『好き』が試される。

だけど、その『好き』って実は以前も経験していることの方が多い。

新しい小説を読む時って、新しい物語を欲しているわけではないのかもしれない。

新しい刺激が欲しいんじゃないんだ。
あの時のあの衝撃をもう一度思い起こしたくて、追体験したくて。

どこか似ているあの人を探し求めている。そんな感じ。


昔出会った大好きな人や大好きな作品ともう一度出会いたくて、気持ちを重ねて。
また新しい道を創っていく。




カツセマサヒコさんや燃え殻さん。
最近のエモメイカーな作家さん達って、この『昔の出来事を追体験させる』ワードの使い方がすごい気がするんだ…。


いつも通勤で使う駅やあの時飲み明かした居酒屋。
仲間と過ごした場所、有名なshop。
大好きな人が教えてくれたアーティストやいつも一緒に聴いていたあの曲。


小説の至る所に、追体験できるものが散りばめられていて、あの日の気持ちを掘り起こされて胸が締め付けられる。

あんなに好きだったのに、あの場所に行くといつも思い出していたはずなのに、この忙しい日々に埋もれてしまって。
この燻んでしまった思い出が、言葉によって水面に浮かび上がってくる。
ゆらゆらきらきら、綺麗な記憶となって浮かんできて、でもまたすぐに沈んでいってしまう。




そんなことを繰り返して、わたしはまた彼を好きになるんだ。



エモく感じてしまうのは、いつも自分が行っていた場所や聴いていた音楽、情景が重なる描写がたくさん描かれているから。
主人公に自分を重ねてしまうんだと思う。

そして、容易に真似できるシチュエーションがたくさんあるので、誰でも『彼』や『彼女』になることができる。




『明け方の若者たち』は、幸せな恋愛小説ではない。


彼女のことを知れば知るほど好きになって、だけど最初から終わりしか見えていない。


終わりがあるから、せつなくて愛おしい気持ちが溢れてくるのかもしれない。


結局恋愛なんて、独り善がり。
「こんなに好きでいられる自分が好き」
「寂しさを埋めてくれる人だから好き」
「自分が相手を幸せにしている」
「相手を救えるのは自分しかいない」

自分勝手な気持ちばかりが募っていく。

結局みんな、自分を1番に考えているんだから。

同じベクトルの『好き』には滅多にお目にかかれないのが現実なのかもしれない。そう思った。





エモい小説には、当然『別れ』が必要となってくる。

大切な人とは、いつか別れなくてはいけない時が絶対に来る。
一方的に、突然来る別れだとしても、それは全く『突然』ではなくて、立ち止まってみれば思い出せることはたくさんあるんだよね。


本当に大切な人ほど、わからないまま整理のされないまま突然閉ざされてしまうことが多いのかもしれない。


あんなに深く繋がっていたのに、離れる時は案外簡単にほどけてしまう。


あっさりと別れたからといって、相手の気持ちが無くなったわけではないんだ。

きっと別れが辛いから。最後の思い出の中では、一緒に笑っていたいから。



知らないままで良いよ。
ずっと幸せな思い出を飾っていてほしい。
そう思っているから。そんな気がする。





また何処かで、だいすきなページを開くことになるかもしれない。

好きなものに触れた時、忘れられない人に出逢った時、怒りや悲しみを昇華させたい時。

どこにもぶつけられない気持ちを、文章となって思い出の中に置いてきてくれるような、そんな小説でした。


わたしの行き場のない気持ちも、『明け方の若者たち』の中に置いてこれた気がする。


だいすきでした。

もう、なんだかわからないので、おやすみなさい。


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