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対談:君は、昼間からビールを飲めるか?

対談人物(F:俺、A:安部ちゃん)

F:あのさー、君、昼間からビールとか飲める?

A:いきなりっすね。昼間からビールかあ。個人的な場面ではやったことないですね。

F:俺もそうだなー、結婚式とか、正月の集まり、昔やってた花見くらいかな。それ以外で、個人的に昼間からビールを飲んだとか、数えるくらいしかないな。

A:私も冠婚葬祭ではありますね。それ以外って、どんなパターンですか?

F:出張の帰りの飛行機でしょ。後、出張先で徹夜した次の日の半分やけ酒、年末に蕎麦屋で、とかかなあ。

A:出張ストレスありまくりだったみたいだな。それ、ビールに限るんですか?

F:だってさあ、君、昼間から焼酎とか日本酒とかの強い酒だと、それはもう向こう側に行っちゃった人みたいに見えない?

A:やっぱ他人の目が気になるんですかね、我々。小心者って言うか………。

F:他人の目っつーか、勝手に内面化した「他人の目」とか「世間」とかだよね。他人は、こっちの行動なんかに興味ない。それは分かってるんだけどねえ。ああ、そう言えば、以前 Netflix で見た『野武士のグルメ』で、定年退職したオジサンが、定食屋で昼間からビールを頼むのに躊躇するシーンがあったなあ。

A:それ、モロ、あなたの境遇じゃないすか。

F:そうそう、今になってみると分かるなあ。世間の人々は働いている途中でランチを食べにくるのよ。その中で一人、引退したオジサンがビールを飲む罪悪感、みたいな。『野武士のグルメ』では、批判者が現れる妄想すら抱いていた。いや、難しいなあ。

A:でも、我々の知人の中には、休日には平気で昼間から飲んだくれる人、いますよね。

F:居るねえ。彼のことは、ちょっと羨ましい。アーケードの中の昼からやってる居酒屋で飲んでるねえ。うちの親戚筋にも、その手の人、居るなあ。昼どころか朝から飲んでたりする。

A:朝からってのは、結構向こう側に行ってる感じがしますね。そういう人って、「世間の目」とかは、どう意識してるんでしょうね。

F:「世間の目」を内面化していないってこともないんだろうが、強度とか、このシーンでは作動しないって差があるんだろうな。「自分の金で昼酒するのに、世間とか関係ないじゃん」って感じだと思うわ。論理的には正しい。

A:あなたもやれば良いじゃないんですか? 定年退職して、仕事を気にすることもないんだから。

F:いやー、昼酒すると、脳が働かなくなるんで、その後の一日がパーになるんだよな。眠くなるし。それが嫌。

A:またワガママなことを。一日に響かない程度に飲みなさいよ。

F:そうすれば良いんだけどね。昼酒OKみたいな文化が羨ましいわ。スペンサーシリーズとかだと、昼間から自然に飲んでるよな。

A:人種的な違いもあるんでしょうねえ。

F:でもさ、ちょっと考えると、そういう「他人の目」込みでこその昼酒、みたいなのもあるかもね。罪悪感があるから快感がある、みたいな。

A:ある意味、不純ですよね。

F:そうかもしれないけど、飲酒の快感のひとつは、日常のロックを外すことにあると思うんだよな。だから「他人の目」とか「世間体」とか、強く内面化した他者を一時的に外す快感を求めるのって、王道なんじゃないか? とも思うわけだ。

A:つまり「夜のビール」よりも、「昼のビール」のほうが罪悪感が強い分、飲酒の機能としては正しい?

F:そして「昼のビール」よりも「朝のビール」のほうがより正しい。

A:あまり健康にはならないロジックですね。

F:うん。で、結局、一日中飲むことになる。しかし、そうすると「ハレとケ」の段差がなくなって、最初は快感だったものが快感でなくなっちゃう。だらだら飲みは、だから駄目だよな。

A:結局、「昼のビール」は、まれに実施するのが正しい、と。

F:何か最初の地点に戻ってきただけ、みたいな気がするなあ。

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