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【劇中詩】この街へ来たことが正しく思えるように

この街へ来たことが
正しく思えるように
私はわたしを演じてきたんだと思う。
ありのままの私じゃ誰も欲しがらないから
鍵をかけて、その場所をあとにした。
それでも私は
ほんとうの名前を忘れたことはなかった。

いつか きみは
きみ自身を取り戻せるだろうか。

羽ばたきの数だけ
わたしの嘘は増えていった。


誰でもよかった。
わたしがいなくても
誰かがわたしを演じてくれる。

失う勇気もないくせに
みんな誰かを愛したいんだなあ。


剥ぎ取ってしまえ。
怒りも憎しみも悲しみも祝福も
わたしとは関係がない。
あなたの愛も
わたしとは関係がない。
貼り付けられた借り物の感情を
脱ぎ去っていくなら
今だ。

ーーー

*MOOSIC LAB 2018 短編部門 映画『さよなら、ミオちゃん』(荒木洋航監督)に、劇中詩として書き下ろしたテキストです。
登場人物の心情に寄せて、6つのフレーズを綴りました。
芝居あり、音楽あり、ダンスあり……と要素の多い映画作品の中で、詩の言葉は、声は、どのように立ち上がるか? ぜひご覧いただけたら嬉しいです。
札幌の映像作家・荒木洋航監督×ロックバンド”さよならミオちゃん”が送る物語。「誰かの代役となりうる自分」「代替可能な自分」と、いかに「さよなら」するか――。アイデンティティをめぐる人物たちの葛藤や衝動を、鮮やかに切り取った作品です。

●明日12月4日(火)21:10~のAプログラム@新宿K's cinemaが、東京での最終上映になります。
上映スケジュールはこちら
http://www.ks-cinema.com/movie/moosic2018/

●12月15日(土)、札幌でも上映予定です。
MOOSIC LAB 2018 SAPPORO
http://spplaza25.com/event/moosiclab2018-sapporo/

●『さよなら、ミオちゃん』作品情報
監督 荒木洋航
音楽 さよならミオちゃん
出演 夜道雪/黒田勇樹/椿隆之/九十九レイナ/リンノスケ/さよならミオちゃん 2018/日本/30分

(そのほか、中部・関西方面でも…?
今後の上映情報は『さよなら、ミオちゃん』公式Twitterで)


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