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書店員さん

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

出版業界で永らくお世話になっているが、僕が書店員だった30年前と何が違うかというと店員さんの数の圧倒的な違いだ。

僕がいた店には200坪の店に社員が20人近くいた。
事務員やレジ係り、仕入れ係りという人達を除いて一人当たりが担当する床面積は20坪未満だったのである。

それでも1日の仕事は忙しかった。本がよく売れていた時代だから社員数を充分確保出来たことは間違いない。逆に言うと充分な人員で棚を管理していたので売れていたとも言える。一人で100坪とか200坪とかの商品を管理することなど僕には出来ないが、今の書店員さんはやっている。

売れない時代になったとは言え、新刊点数が減った訳ではなく、毎日毎日雑誌や新刊が届き、店に陳列される。そして売れ残りが発生して返品する。これは30年前も今も変らないことだ。

変わったことと言えば、以前は手書き短冊で発注していたものが、POSで発注するようになったし、返品伝票もなくなった。一部の仕事は機械化されたが、商品の店だし展示、接客など人がやることは全く変わってはいないのだ。

確かに僕が書店にいたころには棚の前でどうやって売るかを考える時間があった。自分の持ち場だけではなく他の担当者の棚に行って棚を見る余裕もあった。
レジには専任者がいたので、繁忙時期でなければ1日の内レジに入る時間は1時間くらいで、多くの時間を本の展示に費やすことが出来た。
レジから売上カードを貰ってきて、今日何が売れたのかを知る時間もあったし、版元さんと喫茶店で談笑する時間もあった。
出版社や取次店から送られてくる新刊情報に目を通すことも出来たし、アルバイトさんの販売教育に時間を割くことも出来た。

今、僕が見ている限り、店員さんの一日の仕事は、入荷した本の検品と棚詰め、新刊・雑誌の展示、返品の送品、レジでの接客、店の掃除などで1日終了って感じ。これでため息をつけないのが今の書店員さん。

書店で働くということの一番美味しく楽しい部分、この1冊をどう売るか、これを失ってはいない。そしてこれがあるから仕事が続けられる。もうこれ以上、彼ら彼女らからこの幸せな時間が搾り取られることがありませんように。


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