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原点回帰

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

書店では、1960年代前半に本という商品がバカ売れした時代を経験した人たちはすでに定年を迎え、この業界を去っている。
今書店を切り盛りしているのは、その先輩たちの背中を見て育った世代である。
何でもかんでも、とんでもない数の本が売れたわけではないが、地道に努力すれば本は売れることを知っている世代である。

そしてその世代もいよいよ現場を去る時代に来ている。
もうすぐ、その次の世代がトップに立つ時代が来る。

彼らは効率の世代である。
書店は巨大化したが、規模に比例して本が売れるわけではなく、少人数で大規模な売場から利益を生み出さなければならなかった世代である。
商品管理は「勘」から「コンピュータ」に変り、手書き短冊ではなく、POSが当たり前の世代。
「本という商品」ではなく「商品としての本」という認識が強い世代。

そしてこの次に控えているのが、インターネットを通じて本を買うことが出来る、本が買えるのは書店だけではないことが、当たり前の時代、もちろん米だって洋服だってインターネットを通じて買え、全国各地の名産品を現地まで行かなくても買えることが当然の世代である。

時代が変り、本という商品への見方も売り方も変った。
僕は巨大書店が誕生し始めた1970年代後半からこの業界で生きてきた。
それ以前の書店は100坪あれば大きかった。
書店は小さいが、楽しさは巨大書店以上だった。
そして今原点に帰ろうする動きが見られる。
小さな本屋さんが、店主の感性で品揃えをするような書店。
商品と読者を繋ぎたいと願う出版人。
こうした活動の真ん中にいるのは若い世代である。
地道であることが前提だった出版活動から大量生産大量消費へ、そして再び地道な活動の中から出版物を作り、売るという動きが出始めている。

書店も出版社も得るお金のことを考えると割に合わないが納得して仕事が出来る職業だ、ということを若い世代が掴みとってくれていることを信じたい。
そろそろ僕もこの業界を去り、一読者として書店を徘徊する身となる。
残りの人生を楽しませてくれる書店と出会いたい。


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